宮地先輩と喧嘩をした。

口喧嘩なんて今まで散々やってきたこと、そう思っていた。昨日の僕はいつになく大人げなくて、最近やっと自分から謝ることを覚えてきたというのに、それをすることもなく先輩と別れて部屋に戻ってしまった。あの人もあの人で頑固な性格をしているからなかなか折れたりしないし、僕も僕で納得いかなければ絶対に折れたりしない。苛立ちのままに布団に潜り込んだ昨日、そして朝目覚めたときのこの気だるさ、最悪だ。カーテンを開ければ天気はどんより曇り空、昨日の夕方からの雨でまだ地面は濡れていた。冷たい外気が窓の隙間から流れ込んできて、ほんと、最悪。苛立ちのままに眠りについた僕が朝になって感じた気だるさは苛立ちが罪悪感と不安に変わったものであることは明白で、頭の中はいつも眉間にしわを寄せて怒ってる先輩が眉間にしわを寄せて酷く悲しそうな顔をしていたこと、そればかり。

(会ったら…はやく仲直りしなくちゃ)

そういえば、喧嘩を次の日にまで持ち越しにしたのは今回が初めてだ。一体、どんな顔をして会えばいいんだろう。ああ、こんなことを考えてしまうほどに僕はあの人に参ってしまっているのか…皮肉にも気付かされてしまう。


朝練をしに道場へ向かうと、まだ宮地先輩は来ていない。少しの気まずさと緊張を持ったまま的へと向かえば、乱れた心に散る矢。当たりはするもののいつものように調子が出なくて、酷く惨めだ。意識はいつになっても現れないあの人のことを気にかけてふわふわと宙を浮いているようで。顔も見たくないほどに怒っているのだろうか、考えれば積もり始める不安を払い除けようと弓を引くけれど、放った矢は心の不安を討ち取ってはくれなかった。時間だけは過ぎる。結局宮地先輩は来なかった。


「あーずーさ!」
「ん?…っ」
振り返ると同時に指で頬をつつかれた。
「何するんだよ翼」
「だって今日の梓おかしいんだもん。外眺めてばっかで。だから元気出るようにほっぺたつついてやったのだー」
得意げに笑う翼の言う通り、授業にも集中できずに窓の外を眺めてばかりいた。翼に心配されてしまうほどに僕は弱ってるのか。…困ったな。



いつもの倍くらいに長く感じられた一日。部活の時間に辿り着く。流石に部活になれば宮地先輩に会うことができるはずだ。重い気持ちを持ったまま道場に向かおうと歩いていると、同じように道場へ向かう部長に出会う。憂いを帯びていた顔をして、何かあったのだろうか。

「あ、木ノ瀬くん。ねえ、宮地君のこと何か聞いてないかな?」
「え?」
「今朝いなかったから、珍しいなと思って先生に聞いてみたんだ。そしたら、学校に登校してないし、何も連絡が来てないって言われたから…」

最後の方は何を言っているのか分からなかった、いや、耳が聞くことを拒絶していたようだった。

「宮地先輩…」

頭は真っ白で何も考えられなくて、身体は電源が切れたように動かない。心臓の音がやけに大きく聞こえた。



そう言い君は動かなくなった


title:パッツン少女の初恋



→side.Ryunosuke


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