緑高緑



「しーんちゃん!」
「…なんだ高尾」
 
後ろの席にいる真ちゃんの方を振り向くと、面倒くさそうな顔が目に入る。ったく、そんな顔しなくたっていいじゃんか。
 
「好き!」
「は?」
 
唐突な愛の告白(って言っても結構頻繁に言ってるけど)に面倒臭そうな顔から一変、間の抜けたような顔に変わる。これも結構恒例で、生真面目な真ちゃんは毎回のようにこのやり取りをしてくれるわけだ。そういうとこも、俺は好き。
 
「だからー真ちゃん好きだよ?って」
「お前の頭は昼間っから沸いているのか?」
「うっわ、沸いてるとかひどいね」
「変なことしか言わないからなのだよ」
 
こっちとしては至って真面目なんだけどね。変なこと、とか言われるとちょっと傷つくじゃん。
 

「だってさ、好きなものは好きなんだもん」
「そんなぽろぽろ言う言葉ではないだろう」
「俺は伝えたいけどね」
「お前のはどこまで本気か分からないのだよ」
「全部本気だけど?」
 
じっと真ちゃんの目を見つめて言えば、慌てて目を逸らされる。顔が赤い。可愛い。好き。
 
「真ちゃんに好きって言うときは全部本気。知らなかった?」
「また…そうやって…」
 
照れまくってる真ちゃんが可愛くて仕方ない。だからいくらでも伝えたくなる、好きだって。緑間真太郎が大好きだって。
でも俺だって聖人君主じゃないし?至って健全な高校生だから、俺だって同じように言ってほしいのだ。なっかなか言ってくれないって十二分に分かってはいるけれど。だから俺は魔法の言葉を使うんだ。
 
「じゃあさ、真ちゃんは俺のこと、嫌い?」
 
にっこり笑顔を向けて聞けば、眼鏡の中の目を尖らせて、むっとした表情を見せる。
 
「ねえ、」
「嫌いじゃ…ない」
 
消え入りそうな声で、辛うじて聞き取れる程度のその言葉を聞いて俺の心は満たされる。 

「じゃあ好き?」

って欲張ったことを聞いてしまうんだけど、この答えは大体想像がつくんだよな。

「調子に乗るな!」
 
ほら、大正解。 
 
「んな怒んなよー!」
「気が散るから、さっさと前を向け」
「へいへい」
 
気が散るから、じゃなくて赤面した顔を見せたくないから、でしょ?くるりと体と前に向けて椅子に座りなおす。きっと後ろでは顔を赤くした真ちゃんがむすっとしてるんだろうな、って思ったら楽しくなってきて。一人で笑ってしまう。
今日も俺はしあわせだ。
 
 
 
 
  
私はずるいから、否定してほしかったの
 
 
 
title:ジャベリン
 
 
 
 
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