紫赤 「うわーさっむい」 沈み掛けの太陽が空を赤く色づけて俺たちを照らす。冬が間近に迫った外の空気は簡単に体温を奪う。横を歩く紫原が身体を丸くした。 「赤ちん寒くないの?」 「寒いけど、紫原ほどではないかな」 「マフラーずるい」 「してきたらいいだろう」 「明日からそうする」 何気ない会話をしながら歩を進める。 すると、ふと、隣を歩く影が止まった。 「どうした?」 「ねーねー赤ちん、寒いからさ、肉まん食べよ?」 ね、いこういこう、と手を引かれて近くのコンビニまで連れて行かれた。食べ物に向かう彼を止めようとは思わなかった。言っても聞きはしないだろう。 俺の手を引く手は、大きくて、冷たかった。 「あつあつー」 ほかほかとした湯気が手の中から溢れてくる。掌から伝わる熱が心地よかった。 嬉しそうにそれを口へと運ぶ横顔を見つめた。 「結局あんまんなんだな」 「やっぱり甘いの食べたくなった。赤ちんは肉まん?」 「ああ」 「ひとくちちょーだい?」 小首を傾げて向けられた笑顔は子供のようだった。手に持った肉まんを紫原の方に向けると、俺の手に顔を寄せてぱくりと一口。これは、予想外。 「おいしいねー。赤ちんにもあんまんあげる」 そう言って差し出されたそれを、手で受け取ろうとしたら制止されてしまった。 「ぱくって食べて?赤ちんにこのあんこいっぱいのとこあげたいんだからさ。はい、あーん」 「…」 あーんと言われてもこういう状況に慣れていないものだから、どうしていいかわからない。差し出されたあんまんと紫原とを交互に見たら、いいから、はい。と口元へ近づけられる。 小さく一口。温かな甘みが口に広がった。 「おいしい?」 「ああ」 「おいしいよねーあんまん。俺すき」 「俺もすきだ」 「なんか、こういう帰り道すきかもー」 「そうだな」 ゆっくりと歩きながら温かさを口へ運ぶ。視線に気づいて横を見ると、 「赤ちん楽しそう」 とやっぱり子供の様に笑った紫原が言う。 そうなのかもしれない。 寒さに気づかなくなるくらいに身体があたたかかった。きっと紫原の手もあたたかいのだろう。 ある秋の日の熱 もどる |