黄→緑→高


俺の片思いは実らない。


試合会場で緑間っちを見つけた俺は何の躊躇いもなく彼の方へと飛んでいく。

「緑間っちー!」

ぶんぶん手を振りながら近寄っていく俺を呆れたように見ながらも無下にしないでくれるのが彼のいいところだ。

「緑間っちも今日試合だったんっスね!まあ、結果は聞かなくても大体分かるけど」
「勝ったのだよ」
「今日も人事尽くしてるんスね」
「うるさい」

にーっとからかうと、むっとした顔を向けられる。どうにも可愛いこの人をからかうのはやめられない。
高校になって、進学先が変わった所為で会える機会がぐっと少なくなった。中学時代は毎日のように一緒にいて、バスケしていたのに。会えた時にこうも嬉しいのはその反動なのかもしれない。

「あ、海常の黄瀬くんじゃん」

緑間っちの影からすっと顔を出したのは、高尾くん。緑間っちの今のチームメイトで、多分、緑間っちの好きな人。

「真ちゃん、ちゃんと友達いたんだねー俺嬉しいわ」
「…」
「冗談じゃん!無言で睨まないでよ!真ちゃん怖い!ひどい!」

じゃれあう様子を目の前で見せられて、というかきっとこんなのいつものことなんだろうけど中学の時にはあまり想像できなかった光景だったから、俺の胸の辺りがジリジリと痛む。嫉妬。

「仲…いいんスね…二人」

普通に言葉を発したつもりが、絞り出すような声になってしまって少しばかり焦る。そんなことに気づいたか気づかないかは定かではないけれど。
俺の言葉に答えたのは緑間っちではなかった。

「仲いいかなー?俺は真ちゃんに大好き大好き言ってるけど、真ちゃん嫌な顔しかしないし…って今もしてるし!」
「そんなこと言われても気持ち悪いだけなのだよ」
「これだからツンデレは困っちゃうよなーほんと」

本当に、その通りだと思う。
高尾くんの口が大好きという言葉を発したとき、緑間っちの顔が切なそうに歪むのが分かった。気持ち悪いとか言ってるけど、きっと、自分と同じ気持ちでそれを言っていたらって思ってるんじゃないだろうか。ねえ、違うっスか?緑間っち?
緑間っちの顔が切なそうに見えるのは、俺がそれだけ緑間っちのことを見ているから。そんな顔するくらいなら俺の方見てくれればいいのに、俺にしちゃえばいいのに。なんて、思ってても絶対に言えない。今のこの距離がなくなってしまうことが怖いから。ただ黙って見ているだけなんて、逃げてる?臆病な俺は、彼の恋が終わる時をひたすらに待つことしかできない。好きな人が悲しんだとしても、その恋が終わることを望むなんて、ほんと、俺って嫌な奴っスね。
それでも、好きな気持ちは変えられない。




▽ ▽ ▽ 




黄瀬は必ずと言っていいほど、試合や大会があるたびにやってくる。満面の笑顔を持って。俺のことを見つけては、はしゃぐ犬の様に飛び跳ねてくるのだ。それが俺は嫌いではない。

「緑間っちー!」

と公共の場で大声で呼ぶのはやめろと前々から言っているにも関わらず、今回も手を大きく振りながらこっちに向かってきた。
キラキラと、いつもこうなのか?と疑問に思うくらいに目をキラキラさせて笑顔を向ける黄瀬が眩しい。その中に何かしらの気持ちがあることが感じ取れるほどに。勘違いなのかもしれないが。

「あ、海常の黄瀬くんじゃん」

と、俺のすぐ後ろから聞こえた声に意識が向く。
高尾に馬鹿にしたようにからかわれたりするのも、だいぶ慣れた。キラキラとは言い難いような気持ちにも、気づいてしまった。
大好きだと言った高尾の言葉が、俺の思うものと同じではないことは十分に分かっていて、聞くたびに、嬉しいはずの言葉が痛い。俺のことを俺以上に分かるときさえあるのに、こんな気持ちには一切気づかない高尾を、ただただ、見ていることしかできない。
黄瀬から向けられる視線に気づきながらも、自分のことしか考えられないのだ。なんて醜いのだろう。
向けられる気持ちの方を向くことは簡単なのに、それができない。
どうして、好きだと思う気持ちは変えられないのだろう。




どうか神に許されたりなどしませんように



title:ジャベリン









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