実赤




「ねぇ小太郎…なんで征ちゃんはあんなに可愛いのかしら」

ふう、とひとつ溜息を吐きながらレオ姉こと実渕玲央はそんな言葉を俺に投げかけてきた。またはじまった!って思わず口から出ちゃって、レオ姉に睨まれる。

「そんなに好きなら言えばいいじゃんか」
「はぁ…ダメね小太郎は。だからあんたはモテないのよ」
「それって関係ある?!」

レオ姉が赤司のことをすごく大事そうにしてるのは俺にだって分かるし、あの赤司が、”あの”赤司がレオ姉の前ではなんとなくだけど丸く見える。これって結構うまくいくと思うんだけどな。って、ぼんやりと教室の窓の方を眺めるレオ姉の横顔を見ながら俺は心の中でそっと呟く。

「レオ姉欲張りなんじゃなかったの?」
「それとこれとは違うのよ」
「ほっといたら誰かに持ってかれちゃうよ?赤司が持ってかれる…ってイメージあんまり湧かないけど」

俺は冗談交じりに笑って言ったんだけど、向かいにいるレオ姉の顔は寂しそうに微笑んで

「そうね。持ってかれちゃったらいいんじゃないかしら」

って言うもんだから小さな罪悪感。
好きなのに、そんな風に言うのが俺には理解できなくて「なんで」ってつい声が大きくなってしまう。寂しそうな顔してそんな言葉を言うのは、違うと思うんだ。

「そうねぇ。私じゃない気がするのよ、征ちゃんを幸せにする人って」
「そんなの分かんないじゃん」

どうして、自分が幸せにするっていう選択肢を一番最初に消してしまうんだろう。

「好きな人には幸せでいてほしいのよ」
「レオ姉…」
「はい!ここで終わりにしましょ。次、教室移動でしょ?」

カタンと席を立ったレオ姉の顔はいつも通りに変っていた。切なそうに歪んでいた眉は綺麗な弧を描いて微笑んでいる。好きな人を幸せにできるのは自分じゃないって言うのを、俺は全く理解できないけど、レオ姉が誰よりも赤司のことを想ってるのは多分間違いじゃない。
机に入れっぱなしの教科書をいくつか引っ張り出して立ち上がる。教室の窓から空を見たら晴天秋晴れ、真っ青な空が広がっている。綺麗なそれに、二人で幸せになってくれたらいいのにな、と願わずにはいられなかった。




少しくらいのハッピーエンドは許されてもいいはずだ



title:ジャベリン




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