ふぁ…疲労感からか自然と眠気が零れ落ちる。隣では僕が帰って来るなり部屋に飛び込んできた翼が発明品をいじっている。今日はもう寝たいんだけどな。
「梓、それ取って」
唐突に呼び掛けられて「それ」を探して目を動かしてみるけれど散乱した部品や工具の中のどれが翼のいう「それ」なのか全く分からない。
「それってどれ?」
「だーかーらー、それ!」
分からないから聞いてるのに…眠気と面倒くささが相まって、適当に手元にあったボルトを手に取った。
「はい」
「ありがと梓!…って、違う〜俺が欲しかったのはこっちのペンチ。ぬぬぅ」
いや、手が届く距離にあるなら自分で取ればいいじゃないか。
「じゃああれ取って」
「だから、あれじゃ分からないよ」
僕の言葉に翼はしゅんと頭を垂れてしまった。
「梓は俺の考えてること…わからないか?」
子供のように拗ねた顔で僕のことを見てきて。誰かに入れ知恵でもされたのか、突発的に思ってみたのか…急にこういうことをするから困る。人の考えが全部分かる人なんていないのに。そういう翼の気持ち分からなくもないけど。なんでも伝わって、なんでも分かったらいいなって思うこともある。でも、それができてしまったら面白くないじゃないか、分からないから拙い言葉で一生懸命伝えようとするんじゃないか、だから余計に大切に思えるんじゃないか。
落ち込んだ大型犬のような翼の頭を撫でてやる。
「全部はわからないよ。だからさ、ちゃんと言って?僕もさ…翼の考えてること分かんないと嫌だから」
口が悪い僕だけど、ちゃんと優しく言えただろうか?翼の顔を覗き込むと目をキラキラさせながら満面の笑みを浮かべていた。
「ぬはは!わかったぞー!」
いきなり抱きしめられて耳元で一言。
(今、梓に優しくされたいって思ってたら…言わなくてもちゃんと伝わった)
なんて、すごく嬉しそうに言うもんだから、不覚にもこっちまで嬉しくなってしまったじゃないか。
そうだ、こういうのでいい。大事な時にはちゃんと君の気持ちが分かるようになればそれだけで、いいかな。
切れてても赤い糸電話
ver.040504
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