いづあい


「暑い」

25℃の日差しの中で射弦がポツリとつぶやいた。

「春を飛び越えて夏だよなー…」

白いシャツの袖を折り曲げて露になった腕に爽やかな風が当たっては抜けていく。腕を捲るだけで大分違う。横を歩く射弦は暑いという言葉とは裏腹に腕も捲らず、むしろ涼しそうな顔をしている。

「お前…涼しそうだな…」
ジトッとした声で言えば、怪訝そうな顔から返事が帰ってきた。

「どこが?」
「射弦冷たそうじゃん」

ぶらりと伸びている腕の先、すらりとした指は白くて触ったらひんやり冷たいんじゃないだろうか、そんな風に思わせる。その指に手を伸ばして捕まえてみたら、予想した冷たさじゃなくてほのかな熱を持っていた。射弦の手も、あったかいんだな…。そんなことを思いながら射弦の手をまじまじと見つめていた。

「…藍」
「ん?」
「手、繋ぎたかったなら、言えばよかったのに」
「は!?」

相も変わらずの無表情で射弦がそんなことを言うもんだから、急に恥ずかしくなってきて、手を繋ぎたかったとか一切思ってなかったのに恥ずかしさでいっぱいになっていて、出てくる言葉がしどろもどろになった。

「ば、ば、ばばかじゃねぇの!?」
「馬鹿は藍だよ」
「…おもしろがってるだろ」
「当たり前でしょ?」

無駄に上がった体温をどうにかしろ。そんな思いを込めて射弦を見てもクスリと笑うばかりで伝わることはなかった。

「暑い」



春の終わり

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