いづあい。これの続き


射弦に彼女ができた。
今までどれだけ告白されても興味がないだの好きでもないのに付き合うとか訳が分からないだの、尤もなことを言っては断ってきたのに。一体、何があったのだろう。付き合い始めたという女の子を見てみたら、普通に可愛らしくて、俺にもお辞儀してくれるようないいこで、ちょっとドキリとしてしまった。…でも射弦は前からこの子のこと好きだったのか?

「難しい顔してどうしたんだ?」
「…弓弦。いや、なんか…射弦に彼女ができてー、あいつ、なんかあったのかなって」
「あったんだろうな」
「弓弦もそう思う?」
「でも、まあいいんじゃないか?よかったなって思ってやれよ」
「え…うん、そりゃあ、思ってるけど」

思ってる…"けど"?自分で発した言葉なのに何か違和感を感じて一人で頭の中に疑問符を浮かべる。なんだ?これ。俺の頭が釈然としないまま、始業のチャイムが鳴って、答えの出ない疑問は砂のように零れていった。



* * * * 



部活が終わって、帰る支度を整える。

「射弦ーちょっと待って、帰りに職員室寄るからー」

いつも通り、そう、いつ通りに射弦と一緒に帰るもんだと、俺は思っていたんだ。

「俺、彼女待ってる」
「へ?あ…そっか。そうだよな…え、ええっと…あー…また明日」

別段驚くほどのことじゃないはずなのに、よく考えれば分かることのはずだったのに、俺は酷く動揺していて、手が止まるわ言葉がつかえるわ…どうかしてしまったんじゃないかってくらいで。着替えも途中のまま、ぼんやりとその場に立ち尽くしていた。

一人で帰る道のりは、いつぶりだろう。そんなことも分からないくらいに、いつも隣には射弦がいた。今隣にいない射弦は彼女の隣を歩いているのだろうかと考えてみたら、羨ましいという気持ちよりも寂しくて、おまけに少しの胸の痛みまでついてきて…一体俺はどうしてしまったんだろう。射弦がいない、ただそれだけなのに。ただそれだけのはずなのに、いつも通りじゃない。

「なんで彼女なんて作ってんだよ、ばかいづる…」

ふと、数日前のことを思い出す。射弦が俺に好きだと言ったあの日。

「好きって言ったくせに…」

そして全てに合点がいった。射弦が彼女を作ったことも、あの日の射弦がやけに寂しそうな目をしていたことも、射弦が好きだといった意味も。俺が今なんでこんなに胸が痛くて、射弦のことばかり考えているのかも。合点がいくと同時に、俺の視界は歪んでいて、目からはぽつりぽつりと涙が零れていた。どうして俺はこうなんだろう。失って初めてその大切さに気付くんだ。いつも通り、射弦がいつまでも俺のそばにいるとばかり思っていて、気づけなかったんだな。分かりにくいお前のことを、一番よくわかってるつもりだったのに、一番大事なことを分かってやれなくて…その上自分の気持ちもやっと分かったんだ。

「ほんっと…俺って、馬鹿だよなあ…」

止めどなく溢れてくる涙を止める術が分からなくて、どうすれば胸が痛いのが収まるのかも分からなくて。でも、お前の気持ちに気づくのが遅くってよかったんじゃないかって思うんだ。きっと、俺、今以上にお前のことしか考えられなくなってだろうから。なんて、必死に探すんだ。今の自分を肯定するための言葉を、気づいた瞬間に終わっていた気持ちを片付ける方法を。

「俺も、好きだぞ…射弦…」

届かない声は、涙と一緒にゆっくりと落ちて行った。




あなたで腐ってしまう前に


title:ジャベリン




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