いづあい


「藍ちゃん、好きだよ」

初めて云ったのは12年前。俺が小学校に入る前だった。あのとき、子供だったけれど確かに緊張もしていたしその気持ちに間違いはなかった。けれど、返ってきたものは俺の意図するものじゃなかった。言葉は同じ言葉でも、俺の言うものとは中身が異なっていたから。

「俺もいづるのこと、すきだぞ!」

あのときの藍の笑顔は俺の言葉の中の本当の意味になんて気づかない、この上なく純粋なものだった。だからこそ、幼心に胸が痛んだんだよ。だからこの年になるまで、想いをずっと、体の中にしまい込んだまま過ごしてきた。そうでないといけないのだろうと分かっていた、でもそれにも限界というものがやってくる。いつまでもこのままでは、いられないんだよ、と誰に言うにでもなく呟く。放った言葉は霧散するように消えた。


そして、数日前、俺は二度目の告白をした。ふと、横を歩く藍に天気の話をするくらいの感覚で。

「藍、」
「ん?」
「好きだよ」

俺の言葉に一度大きく見開かれた藍の目。それはすぐに細められて、満面の笑顔を作った。

「俺も好きだぞ」

その顔が12年前の笑顔と重なる。ねえ藍、分かってる?俺が、どんな気持ちでこの言葉を言ってるのか。この意味、ちゃんと分かってる?
藍に近づけるギリギリまで行って、襟首を掴んだ。苦しそうに歪んだ藍の顔。唇をギリギリまで近づけて、言う。これが、俺ができる最後の抵抗。

「藍って、本当に馬鹿だよね」

絡んだ視線を外して背中を向けると後ろから疑問を含んだ藍の声が聞こえた。

「射弦…?」

でも、もう遅い。もう終わりだよ?藍。俺の中の唯一の執着をここで切る。だから藍は今まで通りその笑顔で笑ってればいい、残酷な笑顔なのに愛おしいと思うなんて馬鹿は俺の方なんだろうね。

「突っ立ってないで、行くよ?」

届かなかった想いを勝手に自分の中で切って終着させて、それが自分勝手だというのならそうかもしれない。でも俺にはこれ以上にできることはないから、届けようとも思わない、それで困らせることもしない。これは、俺にできる最大級の思いやりだよ。




これ以上やさしいものってないんじゃないかな


title:ジャベリン




つづき

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