今日はハロウィン。外国では仮装をしたりお菓子を配ったりと一大イベントだけれど、日本ではそこまで大々的に何かが行われるわけではない、はずなんだけれど…。

「これ、なんなんですか?」

朝練に来て道場の戸を開けるとみんなに囲まれ、両手いっぱいのお菓子を持った宮地先輩。

「あ、木ノ瀬君おはよう」
「おはようございます、部長。あのこれは一体?」

一人訳が分からず疑問符ばかりを浮かべる僕に、思い出したかのように金久保先輩は事情を説明し始めた。

「木ノ瀬君には言ってなかったんだっけね、今日はハロウィンでしょう?今日は甘いもの大好きな宮地にみんなでお菓子をあげる日、なんだよ」
「なんですかその訳の分からないハロウィンは」
「去年のハロウィンの時に宮地君にお菓子をあげたら思いの外喜んでくれたのがきっかけで、いつも眉間にしわばかり寄せてる宮地君を笑顔にしようって始まったんだよ。」

微笑みながらそう話す金久保先輩の後ろに見える宮地先輩の顔は、両手に抱えたお菓子を見ながら満面の笑み。お菓子に妬く訳じゃないけれど、そんな満面の笑顔を惜しげもなく見せるもんだから少しばかり意地悪をしてやりたくなってしまった。





「宮地先輩」

休み時間に先輩の教室に出向いて呼び出した。僕に気付いた先輩は一瞬驚いた顔をした後に立ち上がって、廊下まで出てきてくれた。

「どうした、何か用事か?」

教室を訪ねることなんて滅多にないからか、宮地先輩は不思議そうな顔で僕の前に立った。

「用事というか、今朝先輩にお菓子をあげられなかったので。あれって弓道部の恒例行事、みたいなものですよね」
「別にそういう訳でもないが、みんながくれるからありがたくいただいている」
「だから、僕も先輩にあげたくって」

オレンジ色の可愛らしい包みにくるまれたキャンディと赤い箱に入ったチョコ菓子を差し出すと、いつも眉間に皺ばかり寄せているその顔がふわりと綻ぶ。ほら、またそうやって不意に無防備な笑顔を出すんだから。その顔は僕の前だけにしてほしいのに、なんて思うのは我侭なのだろうか。少しだけ、ほんの少しだけ悔しいから、意地悪をしてやるんだ。それに、先輩の困った顔を見るのもとても好きだから。

「じゃあ、お菓子もあげたところで」

宮地先輩の手に渡ったお菓子を見て悪戯に笑う。ねえ先輩、今回はちゃんと選択肢を用意してあげたんですよ?

「Trick or Treat?」
「なっ…」
「お菓子をくれなきゃ、悪戯しますよ?どうしますか、宮地先輩?」
「どうって」

手元のお菓子を見つめ、思惑通りの困った顔を浮かべる先輩を横目に面白がっていたけれど、先輩はなかなか答えを出してはくれなくて。うーうーと小さく唸りながら本気で悩んでいるようだった。最初は面白がっていた僕だったけれど、そこまで本気で悩まれると少しばかりムッとした気持ちも生まれてきて。そこまでお菓子が大事なのか!?って。

「そんなに悩んでるってことは悪戯、してもいいんですよね?」
「そ、それは駄目だ」
「何でですか」
「お前の悪戯は嫌な予感しかしない」
「だったらそのお菓子渡したらいいじゃないですか」
「それも…嫌だ」
「あーもう!そんなにお菓子が大事なんですか!?」
「そうじゃなくて…折角木ノ瀬からもらったものなのに、手放してしまうのが勿体無くて…だな」

困った顔のままに目線を横にずらしながらポツリと呟いた消え入りそうなくらいの宮地先輩の言葉。

「それって、お菓子が大事なんじゃなくって、僕からもらった物だから大事ってことですか?」
「…」
「教えてくれませんか、宮地先輩?」
「わざわざ聞くな…」

頬を赤くする先輩の顔を見上げる。これはお菓子よりも甘い甘い悪戯を用意しなくっちゃいけないみたい。ここが学校の廊下じゃなかったらすぐにでもしてあげるんだけど、なんて。抱きしめてキスしてやりたい衝動を押し込めて、先輩からもらった甘いお菓子のような言葉を持ってその場を離れた。

「ハロウィンは日付が変わるまでですから、覚悟していてくださいね?先輩」



Trick & Treat?






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