ひまわり | ナノ
お天気日和

久しぶりの我が家に、懐かしい気持ちがよみがえる。この家に住むのは小学生の時に引っ越しをして以来だった。
父の転勤に伴い家族みんなで引っ越してからしばらくの間は貸家にしていたが、私の就職先がこの家の近くになり、ちょうど住んでいた住民も退去するタイミングだったことから、わざわざ一人暮らしするよりは、と私だけこの家に戻ってくることとなったのだ。
引っ越し業者の人が荷物を一通り運び入れてくれて部屋を片付けていると、チャイムが鳴った。玄関へと向かいながら誰だろうと考える。荷物はもう運び終わったはずだけど、忘れてたものでもあったのだろうか…。私は深く考えず、インターホンを確認もせずにドアを開けた。


「凛子!」
「わっ」


声とともにガバっと誰かに抱きつかれる。突然のことにびっくりしたがその勢いに負けて私は尻もちをついてしまった。
私に覆いかぶさっているのは一体何かとまじまじと見ると、それは黒い髪の毛の男の子だった。


「凛子、帰ってきたんだな!知らなかった!」
「えっと………」


子犬のように瞳をキラキラとさせて私を見ているこの少年は一体……。
と考え始めて、彼の目の下にある傷を見てふと思い出す。


「もしかして、ルフィくん?」
「おう!久しぶりだな、凛子」


にこにこと笑いかけるルフィくんは、私の記憶にある姿よりもはるかに大きくなっていた。
お隣に住んでいたルフィくん。最後にあったのは10年以上前だ。私だって大人になったし、もちろん彼も成長しているにきまっている。
尻もちをつかせてしまったことに今更気付いたのか、ごめんな!と言って彼は私に手を差し伸べて立たせてくれた。


「あ、ありがとう、ルフィくん」
「今来たばっかりなのか?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、おれ手伝うよ。何すればいい?」


ルフィくんはそう言って私の返事も待たずに靴を脱いで部屋に上がってしまった。
強引でマイペース。そう言えば、小さい頃はいつもルフィくんに振り回されていた思い出がある。記憶を辿りつつもルフィくんの厚意に甘えることとして、二人で荷ほどきを始めた。

男手があるおかげでスムーズに作業が終わり、ひと段落ついたところでお茶をすることにした。
ルフィくんは用意したお茶菓子をものすごい勢いで食べていた。そんな姿も昔のまんまで、私は思わず笑いだしてしまった。


「ん?どうした?」
「だってルフィくん、昔もそうやってたくさん食べてから。変わってないなぁって」
「ふーん。まぁ凛子も全然変わってないけどな」
「そうかな?」
「ああ、昔と同じで可愛い」


お菓子を頬張りながら笑顔でルフィくんはそう言った。
いきなり可愛いなんて言われると、ついつい面食らってしまう。確かにルフィくんはいつも思ったことや感じたことをストレートに言ってしまう癖があった。そういえば、昔もよく可愛いと言われていたような。その延長線だろうか。
彼の可愛いに深い意味がないことなんてわかっていたはずなのに、素直に照れてしまった自分が少し恥ずかしかった。


「あはは、ルフィくんはいつもそう言ってくれるね」
「凛子は昔からずっと可愛いぞ」
「ありがとう。そういえば、エースは今日はいないの?」


ルフィくんとエースはいつもセットだった。同い年のエースと先に仲良くなって、それからルフィくんとも遊ぶようになったのだ。
お隣は少し複雑な家庭事情らしく二人の両親は一緒に住んでいなかった。時々ガープさんというおじいさんが二人の面倒を見に来ていた。私の両親も共働きで忙しかったから、三人で留守番をすることも多かった。
10年以上も前のことだがこうやって実家に戻りルフィくんと話していると、次々とその頃のことが思い出せてくる。


「エースは、確か今日仕事だった気がする」
「そっか。どんな仕事してるの?」
「うーん、白ひげんとこで働いてるらしいけど…あんまよく知らねえ」
「へぇ…懐かしいなあ。私もエースももう働いてるなんて、びっくりする」


三人ともあんなに小さかったのに、なんて感慨深く思っているとルフィくんが拗ねたように頬を膨らませた。


「ルフィくん?」
「…エースのことばっかり」
「え?」
「おれの方がずっとずっと凛子に会いたかったのに。エースのことばっかりでむかつく」


思わずドキッとしてしまう。私は高鳴った胸をごまかすように笑った。


「そう、だったかな。ごめんごめん。ルフィくんの話もたくさん聞きたいよ」
「ほんとかあ?」
「うん。今日はうちで一緒にご飯食べよっか。私が作るよ」


ルフィくんは途端嬉しそうに笑いあれこれと料理のリクエストをしてきた。明るくて単純。その笑顔は昔と変わらず可愛かった。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -