「エリスちゃん…?」
「サンジさん!」
夜になると平熱に戻っていた。きっと、ゾロさんがそばにいてくれたせいかな、なんて思ったりして。
しかし、昼間ずっと寝ていたせいで、ふと夜中に目が覚めてしまった。一度覚醒してしまったせいで中々寝付けなくて、しょうがないから水でも飲もうかとキッチンへ向かった。そこにはサンジさんがいて何やらテーブルで作業をしていた。
「こんな夜中にどうしたの?」
「昼間寝すぎちゃったから眠れなくなっちゃって…。それで、喉乾いたからお水でも飲もうと思って来たの」
「じゃあ、今ホットミルク作るよ」
サンジくんは、席を立ってことことと牛乳を沸かし出した。私は、サンジさんが座っていた席の向かい側に腰を下ろした。
「これ、レシピ?」
先ほどまでサンジさんがメモしていた紙をちょっとのぞいてみる。そこには、どうやら料理のレシピが書かれていた。
「ああ、今日街で教わったレシピを、いろいろ変えてみたりしてたんだ。明日の夜に、試してみようと思ってて」
「そうなんだ、楽しみだなあ」
私はそう言ってレシピの紙をまじまじと見つめた。知らない食材がたくさん書かれていて、私にはさっぱりわからなかった。
「どうぞ、プリンセス」
「ふふっ、ありがとうサンジさん」
こういうキザなセリフは正直恥ずかしいけれど、サンジさんの優しさがこもったホットミルクは温かくて甘かった。
「体調はもう大丈夫なのか?」
「うん、チョッパーくんにも、明日はもう出かけても大丈夫って言われたよ」
「そりゃあ良かった」
私は、眼鏡をかけて真剣にレシピをかく珍しくて、まじまじと見つめていたら、サンジさんが顔をあげて困ったように笑った。
「そんなに見られたら、さすがにやりづらいよ」
「わ、ご、ごめん…!」
「いや謝るほどのことじゃねえよ。…なんか気になるとこでもあった?」
「えと、なんていうか…。眼鏡のサンジさんが珍しくて」
「ああ、あんまりかけねえからな。似合う?」
「うん、すっごく似合うよ」
「エリスちゃんにそう言ってもらえるなんて光栄だな」
「それに、みんなのために料理のことで真剣になってるサンジさんの顔、好きだから」
はにかんで笑うと、サンジさんにしては珍しく視線をそらされた。どうしたんだろうと首をかしげると、サンジさんは立ち上がって、私の頭に手を伸ばしてきて、ぽんぽんと優しく撫でた。
「?」
「…もう遅いから、それ飲んだらすぐ寝な」
「サンジさんは?」
「俺ももう寝るから」
「あ、もしかして、私邪魔だった…?」
いきなり立ち上がったサンジさんに、私は少し不安になる。だけど、サンジさんは優しく笑って言った。
「いや、明日朝一で仕込みをしなきゃいけねえこと今思いだしたから、そろそろ寝ねえとやばいなと思ってさ。別に、エリスちゃんは関係ねぇよ」
「それなら、良かった。ホットミルク、ありがとう」
私はミルクを全部飲んで、サンジさんにおやすみの挨拶をして、自室へと戻った。
最後の方、ずっとサンジさんが目を合わさなかったのが気になったけど、部屋へ戻るとホットミルクのおかげか眠気がして、すぐに寝てしまったので、その時覚えた違和感はすぐに忘れてしまった。
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