会えない長い日曜日


『悪い、バイトが入った。終わったらすぐ連絡する』

待ち合わせ場所についてから届いていたメッセージ。そっけない言葉は相変わらずだったけど、ガーンという効果音が本当に頭上から降って聞こえたような気がした。
約束していた時刻の30分前だった。随分と早く着き過ぎてしまった私の空回りが、余計にやるせなさを増長させた。
勇気を振り絞る日曜日になるはずだったのに。大きなため息を吐いて近くのベンチに腰を下ろす。トーク履歴をなんとなく遡ると、連日の通話履歴が目に入り、少しだけ気持ちを持ち直した。

学期末のテストが終わった打ち上げの飲み会で、たまたまゾロ君と隣の席になった。お互い同じクラスだから存在は知っていたけれどちゃんと話したことはなくて、だけど私はずっと彼のことが気になっていた。これがチャンスと思い頑張って話しかけてみると、ゾロ君は思っていたよりもずっと気さくで、なんと連絡先の交換まですることが出来たのだった。
それから私たちは毎日連絡を取るようになって、最近は毎晩ちょっとした長電話をする仲になっていた。ゾロ君は文章はそっけないけれど、電話だと優しく相槌を打ってくれて、ゾロ君自身の話もよく聞かせてくれた。
そして話の流れで、日曜日に映画に行こうかと約束をした。今日は初めて二人で出掛けるはずだったのだ。それなのに……。


「はぁ……。やっぱり、脈は無いのかなぁ」


思わず出てしまった独り言に我ながら苦笑する。毎日電話をしているとは言っても、話す内容は本当に他愛もないことばかり。ゾロ君に彼女がいるかどうかすら確認出来ていないのだ。もしかしたら今日も本当はバイトなんかじゃなくて、別の女の子との用事があったのかもしれない。
ネガティブな想像は一度考え出すと止められなかった。私は気持ちを切り替えるためにも立ち上がり、せっかくオシャレをして家を出たのだから、とひとりで街をぶらつくことにした。
とは言っても特にやることも思いつかず、気がつくと足は今日行く予定だった映画館へと向かっていた。二人で見る予定だった映画は、もしかしたらゾロ君と一緒に見る機会がまた訪れるかもしれない、という未練が湧いてしまい選ぶことが出来ず、たまたま時間が合ったよく知らない洋画を見ることにしチケットを購入した。
隣の席には付き合いたてのカップルが座っていて、仲睦まじくポップコーンを分け合って食べており、一人の虚しさをいやというほど感じてしまい映画が始まる前から私は今日何度目かの大きなため息を吐いた。

映画は面白かったが、この感想を話し合う相手がいないことにまた落胆してしまう。
適当に入ったお店で少し遅めの昼食を取り、さてこれからどうしようかと食後のコーヒーを啜っていた。ゾロ君は、今頃バイトで忙しく働いているのだろうか。何度か電話をかけてみたが、コール音が鳴るばかり。そういえば私は、彼がどこで働いているのかすら知らなかった。
仲良くなれた気でいたのは、私だけなのだろうか。彼のことをよく知らないくせに、好きという気持ちだけはどんどん膨らんでいく。
ぼーっとガラス窓の外を眺めていたその時、テーブルの上に置いていた携帯が、震えた。パッと手を伸ばして慌てて電話に出る。声は、多分震えていたと思う。


「はい、もしもし」
「今どこだ?」
「え?」
「待ち合わせ場所、今着いた。遅れて本当に悪ィ。……もう、帰っちまったか?」


言葉の合間合間に息切れような呼吸音が聞こえる。バイトが終わって、急いで向かってきてくれたのだろうか。私は近くにいるからすぐに向かうと伝えて、慌てて席を立ってお会計をした。
お店を出た途端に走り出す足。帰らなくて良かった。待ち合わせ場所からそんなに離れなくて良かった。はやる気持ちが私を急かし、息せき切って今朝の待ち合わせ場所へ向かうと、そこには背の高い彼が携帯を見つめて立っていた。


「ゾロ君!」


自分でもビックリするくらい大きな声が出たと思う。驚いたように周りにいた知らない人たちの視線がパッと私へと集まる。
ゾロ君は私の姿を捉えると、駆け寄って来てくれた。


「今日、悪かった。お前との約束の方が先だったのに、急に熱出したやつがいてどうしても人数が足んねぇって……」
「好き」


理由なんて、なんだって良かった。待ち合わせに間に合わなかったことも、どうでも良かった。こうして来てくれたことが嬉しくて、会えたことが幸せで。
私は気が付いたら、ゾロ君の言葉を遮るようにして自分の気持ちを口にしていた。
ゾロ君の目が驚いたように見開かれる。そりゃあ、驚くよね。私だって、今この瞬間に告白しようなんて考えていたわけじゃない。だけど、言葉は止まらなかった。


「待ってる間、ゾロ君のことずっと考えた。好き…大好き、なんだと思う」


それは素直な気持ちだった。今朝ゾロ君から連絡が来て会えないと分かったとき、私はこの気持ちを伝えられないことを一番に後悔したのだ。心臓のドキドキが、ずっと止まらない。顔も熱くなっている。だけど、視線を逸らすことは出来なかった。
このあとの展開なんて、想像する余裕は私にはなかった。それでも、ゾロ君の頬も赤くなっていて、微かに幸せな返事を予感した。


 




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