約束より確かなもの



一通り街をぶらついて、気付いたらもう夕暮れに差し掛かっていた。

エースが船にやって来た当初は、彼の事を面倒だと思っていた。世話係という役目も、わずらわしかった。だけど今日こうして一日一緒にいて思う。エースは少しぶっきらぼうだけど、心のやさしい人なんだって。私の買い物にも、やっぱり仏頂面だったけど、文句は言わずに付き合ってくれた。
前よりも随分心を開いてくれたエースが、嬉しかった。彼の良さを皆にも分かってもらいたいな、なんて思いながら二人で船への道を辿っていた。

途中、エースが「腹が減って我慢できない」と言いだし、後少しで船だというのに彼は近くの屋台で売っている食べ物を買いに行ってしまった。呆れながらも彼を待っているとき、頭の悪そうな街のチンピラのような男たちに絡まれた。


「ねぇ、君一人?」
「俺らこの街詳しいし、案内するよ」


自分の事を特別綺麗だとか思ったことはない。だけど、こういう風にナンパ(それもタチの悪いものばかり)に合うことは少なくなかった。あまり大事にするとここで停泊するのに居心地が悪くなるので、私は冷静にあしらおうとした。


「ツレがいるんで、結構です」
「でもさっきからずっと一人じゃん、俺らちゃんと見てたよ?」
「もしかし、振られたばっか?だったら尚更、俺らと遊んで憂さ晴らしした方がいいんじゃない」


もうすぐエースも帰ってくる。私は何も言わずに立ち去ろうとした。しかし、その前に手首を掴まれてしまい、私はその男をキッと睨んだ。


「おい」


男の手を振りほどく前に聞こえた声。振り向くと、そこにはエースが立っていて、私の腕をつかんだ男を、凄むように睨んだ。その視線に、男はうっと詰まったような声を出し、その隙に私は彼らの下をスルリと抜けてエースの横へと戻った。


「行こう、エース」
「うるせぇ。こいつらぶっ飛ばしてから行く」
「馬鹿言わないで、ほら、人が集まってきてる」


男たちはみな怯んだ様に動かない。エースのさっきの声には、今まで聞いた事が無いほどの迫力があった。私も、怖かった。私達の周りにはヤジウマが集まってきていて、これ以上注目浴びるのはごめんだった。
私はエースの腕を引っ張る。


「エース、行くよ」
「なんでだよ、お前にちょっかい出しておいて、タダで帰らせる訳にはいかねぇだろ」


彼の顔は怒りの表情で満ちていた。私はため息をついて、彼の頬を両手で包みぐいっとこちらに無理やり視線を合わせた。


「エース。行くの。ここで騒ぎを起こしたら、この街で過ごしずらくなるでしょう。ログが溜まるまでまだまだかかる。ここは大人しく引くべきなの。わかった?」
「でも」
「私は気にしてない。エースがそうやって怒ってくれただけで充分だから」


私の目を見て、だけど彼は納得した様子にはならなかった。それでも、私が腕を引っ張ったら抵抗することなく付いて来たから、どうにか私の言った事を理解はしてくれたのだと思う。

人が少なくなったところで、私は立ち止まりエースの方を振り向いた。


「巻き込んで、ごめんね」
「…ああいうこと、よくあるのか?」
「まあ、それなりに。いつもはマルコ隊長とかが、上手くあしらってくれてるから」


私の言葉に、彼は眉間のしわをさらに濃くした。さっきまでとは違って、いつもの仏頂面に戻ってしまった事が、悲しかった。


「嫌な思い、させたよね」
「それは俺じゃなくてなまえだろ」
「私は、慣れてるから」


再びゆっくりと歩き出す。船の姿が見える。私達は微妙な距離を保ちながら、歩幅を揃えるようにして進む。


「でもね、エースが私の為に怒ってくれて、嬉しかった」
「……別に、お前の為じゃ、ねぇし」
「そっか」
「…」
「ありがとう、エース」


私の言葉にエースは何も答えなかった。だけど、ほんの少しだけ、道に伸びる影の距離が近くなった気がした。
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