夜来風雨の幻聴

激しいキス。私をずっと求めていたのだと、獣のような口付けが確かに教えてくれた。
唾液が絡み合い雨音を掻き消すほどにぐじゅりぐじゅりと鼓膜を犯す。酸素が足りなくて何も考えることが出来なかった。熱い身体に寄りかかるようにして、一層若い唇を貪り尽す。

「佐一君……」

酸欠で朦朧としかけたとき、ようやく名残惜しくも二人の間に隙間ができた。呼吸を整えるように彼の名前を呟くと、佐一君は背中に回した腕でさらに強く私の体を抱きしめた。

「好きです、サヨさん」

あんなに激しい口付けをしたというのに、彼の腕はまだ僅かに震えていた。
青く眩しい告白だと思った。若くて美しくて、気後れしてしまう程のまっすぐな想い。
一体私の何がこんなにも彼を掻き立てているのだろう、とまるで他人事のように頭の片隅で考えた。

「初めて話した時よりも前から、本当はずっと、ずっと好きだった」

私もだよと、軽々しく応えることができたらどれだけ良かっただろうか。佐一君の強い気持ちが私の心をじくじくと痛めつける。
首筋に埋められた鼻先がくすぐるように動き、それから噛みつくほどの勢いで肌を吸われた。

このまま流されても良いのではないか。だって、いつかきっとこうなることは分かっていた。分かっていたからこそ、佐一君を家に招き入れたのだから。
彼の広い背中に腕をまわし、自分から唇を重ねる。何も言わずに彼に委ねる自分のズルさを自覚して、罪悪感がほんの少しだけ募る。

「サヨさん……」

吐息交じりに名前を呼ばれるとそれだけでもう何も考えられなくなりそうだった。
ソファーの上で押し倒され、私を見下す佐一君の顔は今まで一度も見たことがないような表情をしていた。ギラついた光が宿り、彼の獣のような本能が隠しきれずに私の肌をピリつかせる。

「俺、このまま……」
「うん、いいよ」

素肌を這おうとして止まった彼の指先に滲んでいた僅かな理性を取り払うように私はその手をぎゅっと握りしめた。
冷たい指先だった。
喉元がごくりと動くのが見えた。

「佐一君の好きにシて」

指先越しに伝わる鼓動が愛おしかった。
可哀相に。私みたいなロクでもない女に捕まって。
まだ青い彼を私の熱で蝕むことができるなんて、これ以上の娯楽があるだろうか。薄ら笑いを浮かべた私の心などとうに見透かしているような瞳で佐一君は私を見つめながら、再び深いキスをした。




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