うみのいろはあお


船長はとてもかっこいい。これは私の贔屓目を除いても、十分に言えることだと思う。
私なんかじゃ百人いたって敵わないくらい強くて、懸賞金もとんでもなく高くて、頭が良くて、医者としての腕も確かで、ルックスも、長身で冷たい感じがするけど、ニヒルな笑みがたまらなくかっこいい。敵には残酷な面もあるけど、仲間に対しては見た目からは想像もつかないくらい優しくて、面倒見がよくて、とにかく、素敵なのだ。

そんな船長の仲間としてこの海賊船に乗っていて、そのことにとても誇りを持っている。それと同時に、少しの劣等感もある。
私みたいな弱っちい小娘が、船長の率いる海賊団にいていいのだろうか。私がいることで、船長の株を下げてはいないだろうか、って。だからこそ、私は、みんなよりも早起きして、鍛錬して、勉強して、少しでも船長のために頑張ろうって、そうやって過ごしている。

今日も一人早起きして、まだ誰も起きてない静かな船内を抜き足差し足、静かに移動して、いつも鍛錬している広い部屋へと向かった。
今は海中を移動しているから、甲板へは出れない。朝の陽ざしをあびながら外で鍛錬するのが好きだけど、こればっかりはしょうがない。窓から差し込むゆらゆらと水に揺れて反射する光が差し込む部屋も、まあ、悪くはない。
さて、始めようかと言うとき、部屋の扉がきぃ…と開いて、はっと振り返る。誰だろう、こんな時間に。


「やっぱり、なまえか」
「船長…!」


入ってきたのは船長で、途端、赤面。ついつい前髪をいじって、寝癖、ちゃんと直したっけ。不安になる。


「いつもこの時間に起きて一人でやってるのか?」
「はい、そうです。あ、もしかして、一人でここ使うのは、だめでしたか?」
「いや…。そんなことはない」


寝起きらしい船長は、あくびを噛み殺しながら答える。なんだか、可愛い、とか、思っちゃう。でも、船長なんでここに来たんだろう。もしかして、私が起きだして廊下を歩いた物音で、目を覚ましてしまったのかもしれない。船長はいつも朝寝坊さんだから、こんな時間に起きるなんて珍しいし、そうなのかもしれない。


「ごめんなさい、船長」
「なんのことだ」
「いや、あの、船長寝てたのに、私が起こしてしまったみたいだから…」


しゅんと項垂れてそう謝ると、船長はがしがしと私の頭を少し強めに撫でた。船長は、時々こうやって頭を撫でてくる。大きな手の冷たい体温を感じて、少し胸が苦しくなる。


「おれも一緒にやる」
「え、でも」
「嫌か?」
「そ、そんなこと!あるわけないです!」


私がぱっと顔を上げて答えると、にやりと笑って、船長はまた私の頭を、軽く撫でた。

 
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