あまいささやき


船長に抱きしめられる夢をみた。温かくて心地よい腕の中。ずっとこのままでいたいな………。


「おい、なまえ!いつまで寝てるんだ、昼になるぞ!」


突如頭上が降り注ぐペンギンの声にハッと目が覚める。慌てて跳ね起きて時計を見ると、もう既にお昼近い時間だった。
私は慌ててベッドから出る。ペンギンには「だから夜更かしは程ほどにっていつも言ってるんだ」と怒られてしまい素直に謝った。
早く来いよ、と言われて部屋を出て行ったペンギンを見て、寝起きでぼーっとする頭を頑張って動かして昨夜のことを思い出そうとした。

昨日の夜、私………。

船長にキスをされ、そして告白もしてしまったことを思い出す。途端、顔が真っ赤になってクラクラと倒れそうになる。そうだ、そうだった。昨日の夜…、私は船長に抱きしめられて、そしてそのまま眠ってしまったんだ。
「おれのことだけ考えてればいい」
船長の言葉がよみがえる。船長。大きな手が優しく私に触れた。重なった唇。どれを思い出しても私にとってはキャパオーバーだった。船長がどんな思いで私に触ったのか、そんなことまで考える余裕は今の私にはなかった。


着替えて顔を洗い部屋を出て船内を移動する。そういえば、今日はベポと書庫の整理をするって話をしていたのだ。海図を整理したいと言うベポに手伝いを名乗り出たのは私からだった。申し訳ないな、と思いながら書庫を目指す。


「ベポ、ごめんね!私手伝うって言ったのに…」
「あ、おはようなまえ!」


ベポは怒っていない様子であり、ほっと胸をなでおろしたのも束の間、部屋の中には何故かロー船長も一緒にいた。私はビックリして、「えっ!」と大きな声を出してしまった。
船長。昨日までもずっと避けていたが、今日だって避けたい気持ちである。昨日のことをまだ自分の中で消化しきれていないのに…。


「どうしたの?」
「え、いや、なんで船長もここに…?」
「お前が寝坊した分をおれが埋め合わせしてたんだ」
「そうだよ、なまえの代わりにキャプテンが手伝ってくれたんだ!なまえ、ちゃんと感謝しなきゃだめだぞ」


私の代わりに…。船長と一瞬目が合ってしまい、私は慌てて下を向いてベポのもとへと駆け寄った。何をすればいいかと聞いたら、まだ整理していない書棚を指して次はここをやるよと教えてもらった。作業に取り掛かろうとしたところで、別のクルーが天候が怪しいからとベポを呼びに来て、そのままベポは部屋を出て行ってしまった。
二人きりで部屋に残されてしまい、緊張で鼓動が早くなる。


「船長、あとは私がやるので、もう戻っていいですよ。私のせいで、ごめんなさい」
「…寝不足はおれのせいでもあるだろ。気にするな」
「でも…」
「お前はまた、おれを避けるのか」


船長はそう言って私のそばに来てジロリと見下した。私は困ったように肩をすくめて、船長から距離を取ろうとしたが、腕を掴まれてしまい逃げられなくなる。


「避けてるつもりじゃないですけど」
「じゃあなんで逃げる」
「だって…」
「おれを好きだって言ったのは嘘か?」


顔を覗き込むようにそう聞かれて、顔の温度がまた上昇する。昨日の夜のやり取りは、無かったことにはならないのだ。恥ずかしくて死んでしまいそうだ。
私の手をつかむ船長の手も熱かった。ベポが帰ってきたらどうしよう。こんな赤くなってしまった顔をごまかすことなんてできないだろう。


「嘘じゃ、ないですけど、でも」
「でも、なんだ?」
「……もう、昨日のことは忘れてください。あれはなんていうか、言葉のあやで、伝える気なんて無かったんです」


頑張って船長の肩を押して精一杯伝える。船長は私を一体どうしたいのか。
しかし頑張って距離を取ろうとしたが、引っ張られて強く抱きしめられてしまい私の苦労は水の泡となる。ゼロ距離になった心臓が爆音を奏でる。ジタバタ動いたところで船長の力にはかなわない。耳元で、そっと囁かれる。


「好きな女に自分を好きだって言われて、それを忘れるなんて出来るわけねぇだろ」


船長はため息とともに、馬鹿と呟いた。

 
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