「大丈夫か?」
「うー…、あんまり大丈夫ではないかも」


部屋のベッドで唸る私に、船長はため息をついて薬と飲み物を持ってきた。
久し振りに、風邪をひいた。ちょっと前まで戦闘続きだったから、その疲れが出たのかもしれなかった。ベッドに腰掛けた船長に手伝ってもらい、私はのっそりと布団から上半身を起こす。


「無理するなって何度も言っただろ」
「だって、みんな戦ってるのに、私一人だけ何もしないなんて、そんなの嫌だもん」
「看病するおれの身にもなれ。…お前は黙っておれに守られてればいいんだよ」


船長の言葉に私は少しむっとして答える。


「守られるだけなんて、いや」
「お前に戦われると、おれは敵に集中できなくなるんだ」
「でも、私だって仲間なのに、何も出来ないなんて、お荷物みたいな感じがして、嫌なの」
「荷物なんかじゃねぇよ」


俯いた私の手をぎゅっと握って、船長は私の顔を覗き込む様にして見てくる。
いつもそう。船長は私が戦っていると、無駄に傷が増える。ペンギンやシャチは「お前の気持ちは分かるけど、でも何もしないで船内にこもってくれてる方が、俺達も気が楽だ。特に船長なんか、お前がいると気が気でなくなって余計ヒヤヒヤする」と私に何度も言う。
それでも、私は守られるだけの弱い女の子でいたくなかった。海賊になるって覚悟はとうの昔に決めてある。それなのに、戦いもせずに、ただ私を守る仲間を見ているだけなんて、耐えられなかった。


「お前の言いたいことは、分かる」
「…それなら、」
「だけど、おれはお前を守りたいんだ」


船長の真剣な目に、私は何も言えなくなる。じっと見つめられると、心拍数がどんどん上がって、私は平常心じゃいられなくなるのを、船長は知っていてやっているのだろうか。


「お前はある程度強いと思う。一人でもそれなりに戦えるってことも分かってる。だけど、それとは別に、おれはお前を守りたい。お前が強いって分かっていても、心配になるんだ」
「…私の事、信用してないの?」
「ちげぇよ。お前の事が好きだから、おれが守ってやりたいんだ。おれの気持ちも、少しは分かってくれ」


私は船長に握られた手を握り返す。私だって、船長が言ってること、分かるつもりだ。大切に想ってくれているから、過保護になるんだって。
船長はため息をついて、飯でも食え、とスプーンでおかゆを掬って私の口元へと持ってきた。


「じ、自分で食べれるよ」
「いいから」
「……子供扱いは、嫌」


私はそう言いつつも口を開けて、船長にあーんしてもらっておかゆを食べた。食べている私に、船長は「子供扱いじゃねぇよ」と笑いながら言った。
常々思うけど、船長は本当に私に甘い。甘やかされてるって、分かる。船長の優しさは凄く心地よくて、だけどそれに甘えてばかりじゃいけないとも思う。


「私、船長を守れるくらい強くなりたい」
「好いた女に守られるなんて、そんな格好悪いこと出来るかよ」
「でも、私だって船長の事大好きだから、守られるだけじゃなくて守りたいのに」


そう言うと、船長は困ったような顔をして、それから優しく笑った。船長が笑うのは珍しいし、ましてやこんな優しい顔、私にしか見せないって知っているから、笑顔を見るたびに私は嬉しくなる。ぎゅう、と船長の手を私は再び握った。



「とりあえず、お前は風邪を直せ。そしたら、おれが稽古をつけてやる」
「本当?」
「ああ」


空いた方の手で船長は私の頭を撫でた。そして、残りもちゃんと食え、と再びさじにおかゆを取って私に差し出してくる。私は抵抗せずに、口を開けてそれをもらった。早く船長と稽古して、それで戦闘で船長やたくさんのクルーを守れるくらいに強くなりたい。風邪だって、こうやって船長に看病してもらっているのだから、すぐに治るはずだ。私は船長に食べさせてもらいながらそんなことを考えていた。



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