同じ部署の上司で、とっても強くて、かっこよくて、厳しいけど優しい、憧れの人。そんな人から、好きだと言われた。
仕事が遅い私に付き合って、一緒に残業していた時のこと。突然言われたその言葉に、私は耳を疑った。きっと、疲れてるから幻聴が聞こえたんだろう。そう言ってくれたらな、なんて思っていたから。

だけど、違った。

スモーカーさんの目はとっても真剣で、私はすぐに目を逸らしてしまった。


「…すぐに返事しろとは言わねぇ。頭の片隅にでも入れとけ」
「えっ、と。あの、私」
「仕事、とっとと仕上げろ」


しどろもどろになる私に、スモーカーさんはそう言った。なんて言ったらいいかわからなくて、頭の中はパニック寸前だったから、私は言われたように仕事に取り掛かった。


それから数日が経った。スモーカーさんはお仕事で海に出ていたから、彼と顔を合わせる機会はあの日以来一度もなかった。
私は彼と同じ部署ではあるが、前線に立って敵と戦うことはほとんど無い。業務のほとんどがデスクワークである。しかし、事務仕事は向いているし、彼らが戦いやすいように、こうなって雑務をこなすことについて、私はそれなりに誇りを持っている。

その日も、私は一人残って仕事をしていた。時計を見ると、いつの間にか日付が変わっていた。家は職場から近いが、夜道を一人で歩くのはいやだな、なんて思いながらも私は片付けて帰る準備をはじめようかと伸びをした時、廊下から足音が聞こえた。
守衛さんかな?こんな時間まで残ってて、もしかしたら怒られちゃうかも。ちょっとドキドキしながら、その足音の主が現れるのを待った。


「………え?」
「…やっぱり、お前か」


部屋の前に現れたのは、スモーカーさんだった。びっくりして、片付けようと手にしたファイル達を大きな音をたてて落としてしまった。
慌てて拾おうとしたら、さらに机の上にあった書類までバサバサッという音共に床に散らばってしまった。あまりのドジに真っ赤になりながら、私はすいませんと言ってかがんで拾い始めた。
落ちた書類を集めていると、近くで大きなため息が聞こえて、顔をあげたらスモーカーさんも一緒になってかがんで落ちたものを拾ってくれていた。


「あ、スモーカーさん。あの、私が落としたから、手伝わなくてもいいんで、あの」
「いいから黙って拾え」


二人で黙々とプリントを拾う。顔が、熱い。近くにスモーカーさんがいるというだけで、心拍数が、馬鹿みたいに跳ね上がる。

この間の告白を忘れた訳ではない。むしろ、一秒だって考えない時はなかったくらいだ。スモーカーさんは、どうなんだろう。あの時言った言葉を、覚えているのだろうか。それとも、やっぱりあれは私の聞き違いだったのだろうか。

何時の間にか全部集め終わって、それらを机の上に戻して私はスモーカーさんにお礼を言った。


「手伝わせて、ごめんなさい」
「気にするな。それより、こんな時間まで一人で残業は控えろ」
「え…?」
「お前は女だろ。何かあってからじゃ遅い」


そう言ってスモーカーさんは私の頭をぽんぽんと軽く撫でた。突然の事に、かたまってしまう。ぼんっ、と音が出たんじゃないかってくらい一気に顔の温度が上がる。


「仕事、ご苦労さん。送ってく、帰るぞ」
「え、う、あ、はい」


私は赤い顔を見せられないから、俯いたままバタバタと用意をして、スモーカーさんの後に続いて職場を出た。

少し前を歩くスモーカーさんの背中を見てふと疑問に思う。どうして、あそこへ来たのだろう。送ってくれるみたいだけど、本当は用事があって来たんじゃないのかな。ていうか、今日まで確か少し先の海域で戦闘だったはずだし、疲れているんじゃ…。


「あの、スモーカーさん」
「なんだ?」
「その…お疲れでしょうし、わざわざ送って頂かなくても…。それに、あの部屋に何か用があったんじゃないですか?」


私は申し訳なくなって、そう聞いてみる。もし、スモーカーさんの負担になっていたら、それは困る。躊躇いがちに見上げると、スモーカーさんはまた大きなため息をついた。


「おれが今日までずっと基地をあけていたのは知ってるよな」
「はい」
「報告とかいろいろ、めんどくせぇことがさっきやっと終わったんだ」
「お、お疲れ様です。それなら、やっぱり…」
「いいから、聞け。ようやく自由な時間が出来て、あそこの部屋の電気がついてたから、お前がいると思って行ったんだ。あの部屋に行った用事は、お前に会うためだ」
「…………え?」


スモーカーさんの言葉に、私はまた固まってしまう。それって、でも、えっと。頭が追いつく前に、スモーカーさんは口を開いた。


「言っただろ、好きだ、って」
「ス、スモーカー、さん」
「忘れたなんて言わねぇだろうな」


こちらに一歩近付いてスモーカーさんは私の顔をじっと見る。視線が逸らせなくて、頭がパンクしてしまいそうだ。私は口をぱくぱく動かして、自分の気持ちを伝えようとしていたのだけど、うまく声がでなくて泣きそうだった。そんな私を見て、スモーカーさんは呆れたように笑う。


「困らせちまったみたいで、悪いな」
「いや、あの」
「…帰るか」


再び歩き出したスモーカーさんに、私は慌ててその腕をつかんで引き留めた。驚いた様子のスモーカーさんに、私は息を整えてから、ゆっくりと話しだした。


「忘れてなんか、ないです。だけど、本当に言われたのか、なんか、信じれなくて。あと、困ってもないです…。嬉しかったん、で」


顔はあげられなかった。一言一言、しぼりだすように話す。緊張して、上手く言葉が出ないのだ。話し終わると、少し間を開けて、私を引き寄せてから耳元でスモーカーさんは囁くように言った。


「信じれないなら、もう一回言う。…好きだ。おれと、付き合え」


私は言葉で返事する事が出来なくて、だけど、大きくうなずいた。スモーカーさんは反対の方の腕を私の背中にまわして、軽く抱きしめた。そのことに、私はまたドキッと大きく胸を高鳴らせて、息が詰まるほど苦しくなった。
だけど、スモーカーさんの胸からも、私とおんなじくらい大きな心音が聞こえてきて、びっくりして顔を上げると、スモーカーさんの顔も少し赤くなっていたから、私は少しだけ嬉しくて頬をほころばせた。




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