あと十分で六時間目が終わってしまう。いつもは放課後が待ち遠しくて残りの十分間は時間以上に長く感じ早く終われと念じているくらいだが、今日は違う。逸る鼓動が時間を早送りさせているような感覚。待って、終わらないで、六時間目が終わってしまったら……。時計の針が動く度に、私の肩はぴくりと揺れた。

今日は、待ちに待ったバレンタインデー。昨日は一日中丹精込めて贈るためのお菓子を作っていた。今年は好きな人に告白をする、特別なバレンタインデーだから。
鞄の中に入った赤い箱をちらりと見る。本命用のラッピングなんて初めて買ったから、包むのにも苦労をした。この六時間目が終わったら、あの人を呼び出して、誰もいなくなった教室で告白をする。我ながらベタな展開だと思う。でも、だからこそ、緊張もたくさんしていた。
そうだ、怖気付くなんてもったいない。今日こそ絶対、好きって伝えるんだ…!
六時間目が終わるチャイムが鳴り響く。途端、騒がしくなる教室。私は深呼吸をして、ゾロ君の席へと向かった。


「あ、あの、ゾロ君。放課後、時間ある…かな?」
「あー…おう。じゃあ、あいつらに先帰ってろって、言ってくるわ」


ゾロ君はそう言ってガタガタと机を揺らして立ち上がり、廊下で騒いでいるルフィ君とウソップ君たちのところへと行った。「用事があるから」と話している声が聞こえる。ゾロ君が私のために時間を作ろうとしてくれているという事実が、を熱くさせた。
しばらくして、教室からは人が消えて先程までの喧騒が嘘みたいに静かになる。ゾロ君は、ルフィ君達を見送ったあとに教室へ戻って来た。


「ごめん。みんなに気を遣わせちゃったかな…」
「いや、別に。あいつらはそういうの気にしねぇから」


ゾロ君も頭をかいて、私と同じように目を逸らしながら話している。もしかしたら、告白されるって気付いてるいるのかな。バレンタインの日にこんな風に呼び出されたら、そりゃあまあ誰だって勘付いてしまうかもしれない。
緊張で身体が強張ってしまい、なかなか口を開けずにいた。二人で黙ったまま幾分か過ごす。チラチラとゾロ君を見ては時々目があって、慌てて逸らすのを繰り返していた。
それからまた少し経って、ゾロ君が痺れを切らしたように問いかけた。


「ていうか、何の用、だったんだ?」
「あっ、ごめんね…!えっと、その…、これを受け取って欲しくて」


私は震える手付きでカバンから赤い箱を取り出してゾロ君へと手渡す。ラッピング、崩れていなくて良かった…。ゾロ君は、少し頬を赤らめてそれを受け取ってくれた。


「おう。…ありがとな」
「ううん!美味しいかわかんないけど…」
「でも、いや、普通に嬉しいから」


ゾロ君はそう言って少し笑った。その笑顔に、私の胸はきゅんと締め付けられる。どうしよう、かっこいい、ゾロ君の笑顔、かっこよすぎる…!
きっと既に私の顔は真っ赤になっているだろう。今なら言える、大丈夫、きっとうまくいく。私は心の中で自分を精一杯励まして、顔をあげた。


「あのね、ゾロ君。ずっと、言おうと思ってたことがあって」
「…あぁ」
「私、ゾロ君のことが…。私…、その、あのね…」


最後の一言が言えなくて、私はやっぱり俯いた。でも、ここで諦めたらだめだ。勇気を出して、頑張るしかない。私は息を大きく吸い込んだ。


「ゾロ君が、好きです…っ!よ、よかったら、私と、っ、付き合ってください!」


何度も噛みそうになりながら、それでも一息で言い終えた。顔を上げる勇気はなかった。下を向いて目をぎゅっと目を瞑る。
何も答えないゾロ君が怖い。でも、何も言わないでほしい。一秒が数時間分に引き伸ばされたかのように感じられる。ああ、好き、だけど怖い。好き、好き。どうしよう、ゾロ君は私のことをどう思っているんだろう。でも、やっと言えた。好き。ゾロ君のことが、好き。大好き。
頭の中でいろんな言葉や感情がぐわんぐわんと飛び交っている。しばらくして、ゾロ君がゆっくりの口を開いた。


「おれは、いや、おれも。お前のこと、好きだと思う」


静かな低い声。私はびくっと体を震わせて顔を上げた。ゾロ君と目があって、一瞬逸らして、それからもう一度視線を重ね合わせる。


「…お前から、チョコ、もらうの待ってた」
「あ、う、うそ…」
「付き合う、ってことだよな」


私は想いを上手く言葉にすることができず、ただしっかりと大きく頷いた。こんな、ゾロ君も私を好きだと思ってくれているなんて。嘘なんじゃないかと思うくらい。だって、嬉しすぎる。幸せすぎる。


「本当に、いいの?」
「なんだよ。嫌なのか?」
「ま、まさか!…ゾロ君の彼女になれるの、う、嬉しい…」


おずおずとそう返事をすると、ゾロ君は「おう」と短く答えて笑った。あ、また、笑顔。ゾロ君の笑顔に、私の心は火が灯ったように暖かくなる。


「なんか…夢、みたい」


私は信じられなくて、そう呟いた。すると、ゾロ君はゆっくりと手を伸ばしてきて、私の頭にぽんと置いた。高鳴る胸、熱い頬。じんわりと伝わるゾロ君の手の体温が、心を満たしていく。


「夢じゃねぇよ」


嬉しくて、幸せで、だけど恥ずかしくて。私は胸がいっぱいいっぱいになって再びぎゅっと目を瞑る。渡したチョコレートが溶けてしまうんじゃないかというくらい、私もゾロ君も甘ったるい熱を帯びていた。




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