「テメェ何やってんだ!おれを殺すつもりか?動けねぇなら前に出るな、引っ込んでろ!」


お頭の怒号が船上で鳴り響く。私は既に半泣きの状態で声にならない声で「ごめんなさい」と呟いて邪魔にならない場所へと逃げていく。
敵襲があった。お頭や仲間達は意気揚々と飛び出していく。私だってこの船の船員で、仲間なんだからと武器を持って飛び出したはいいものの、すぐに敵に囲まれてしまった。手に持った銃をめちゃくちゃに乱発したら、敵を引き離すことは出来たもののお頭にも掠ってしまい、いつものようにまた怒鳴り散らされてしまったのだ。
お頭から背を向けて離れようとすると、その姿を見て笑う敵の海賊達。


「見ろよ、アイツ自分とこの船長に怒鳴られて逃げてくぜ!」
「こんな雑魚がいるだなんて、キッド海賊団も大したもんじゃねぇな」


私が馬鹿にされるのは構わない。だって本当に私は弱いし、情けないし、どうしようもないやつだから。だけどお頭が、私の仲間が馬鹿にされるのは許せない。私は逃げるのを辞めて立ち止まって振り返った。
そんな私が余程滑稽だったようで、海賊たちはまた笑いだす。「おい、そんな顔したってちっとも怖くないぞ」「大丈夫か?また船長に怒られるぞ!」
奴らに狙いを定めて引き金を引こうとした。その時。


「だから………、てめェは奥で引っ込んでろって言わなかったか!」


お頭の怒りが頂点に達したような物凄い声が鳴り響いて、私の武器もろとも海賊たちは引き寄せられ、そしてものすごい勢いで今度は船上から振り落とされていた。お頭の能力は規格外だ。私はぽかんとその姿を見ていた。
あらかた敵が片付いてきたところだった。こちらを一瞥したお頭に、私は竦み上がる。こちらに向かってスタスタと歩いてくるお頭に対して、私はぎゅっと目を瞑ってその場で俯いた。


「……弱ぇ奴は、弱いなりに考えて行動しろ。俺の視界に入ってくるな」


すれ違いざまに吐かれた台詞はとても冷たいもので、どうにか我慢したけれどお頭の足音が聞こえなくなったあたりで私の両目からはぽろぽろと涙が零れだしてしまった。

いつまでたってもちっとも強くならない、弱いままの私にお頭はいつもイラついている。戦闘の時は特にそうだ。少しでも役に立ちたくて頑張ってはいるけど空回り。嗚咽が漏れそうになるのを堪える。泣き声なんて聞かれたら、もっと嫌われてしまう。このままだと、いつ船を降りろと言われるか分からない。嫌われていたとしても、お頭のそばから離れたくない。なんにもない私のたった一つの誇りが、この船に乗っていることなのだ。こんな私でも、手を差し伸ばしてくれて船に乗ることを許してくれたお頭に少しでも報いたいのに、現実は厳しく私は相変わらずお荷物のまま。

泣きべそをかいていた私をキラーが見つけて慰めてくれたが、心はちっとも晴れなかった。敵はもうみんな倒したから、部屋に行って休んで来いと半ば呆れながら言われて、私は素直に従うことにした。


腫れてしまった目が恥ずかしくて、お頭にこんな情けない姿を見せたらまた怒られて嫌われるんじゃないかと怖くて、私は夕食の時間になっても部屋を出られなかった。食欲もわかなかったし、私は今日はもう部屋にこもろうとベッドの上で蹲っていた。
日付が変わる間際、ぼーっとしていたら部屋の扉をノックする音が聞こえた。こんな時間に誰だろうと疑問に思いながらも扉を開けると、そこにはなんと今一番会いたくないお頭がいた。


「えっ………、え、お頭、ど、どうして」
「……早く入れろ」
「あっはい、すいません!」


扉を開けて固まっていた私にイライラしたようにお頭がそう言うので、私は慌てて部屋へ招き入れた。椅子を用意したが座らずに部屋の真ん中まで来たあたりで私の方を振り返った。お頭の顔は怒っているような表情で、私はまた竦んでしまう。


「あの、今日は、ごめんなさい。私のせいで……」
「………ちっ」


舌打ちをしたお頭は私に向かって手を伸ばしてきたので反射的に目を閉じた。殴られる。お頭は私に直接手をあげたことはないが、それ自体が奇跡みたいなものだ。あれだけ普段怒鳴り散らして、本当は私を殴りたい気持ちでいっぱいだっただろう。私が女だから手加減をして殴らないでいてくれたのかもしれない。でも、お頭に痛めつけられるなら、耐えられると思った。それでこの船にいることを許してもらえるなら、いくらでも殴られても構わない。

しかし、予想に反して私に振ってきたのは優しい手だった。びっくりして顔を上げると、お頭は少し困ったような顔をしていた。


「…………お前は」
「は、はい」
「………おれは、弱ェ奴が嫌いだ」
「……はい」


頭に置かれた手は動かない。お頭の意図が読めずに、私はどうしたらいいか分からなかった。でも、弱い奴が嫌いって、それを私に言うってことは、私のことが嫌いと言いたいのだろう。私は弱い。それは変えられない事実だった。


「ごめんなさい。私が弱いから、いつもお頭に迷惑かけてる。でもっ…私、この船に居たい。お願いします、強くなるから、追い出さないで……」


泣いちゃダメだって、強く強く自分に言い聞かせたけど、やっぱり無理でまたぽろぽろと涙が流れだしてしまった。こんな姿を見たら、お頭はきっとますます私を嫌いになる。ごめんなさい、すぐ泣き止むから。私はそう言って必死に目をこすった。
頭上から聞こえるため息とともにお頭は私の頭から手を離して、今度は私の顎を掴んで無理やり上を向かせて、そして乱暴に私の目元をこすった。


「誰も追い出すなんて言ってねぇだろ!」
「うっ、ご、ごめんなさい」


怒ったような口調だったが、お頭の表情は相変わらず少し困ったような、複雑な顔をしていた。
乱暴に拭かれた涙。ちょっとだけヒリヒリする目元。私はお頭に視線を合わすと、気まずそうに目を逸らされてしまった。


「自分が弱いって自覚がちゃんとあるなら、あんまり戦闘で前に出るな。………お前が無事か心配しながらなんて、戦い辛くてしょうがねェ」
「………えっ?」
「弱いなら、弱いなりにちゃんと守られてろ」


お頭の言葉に私は混乱する。守られてろ、っていうのは、つまりお頭が私を守ってくれるということだろうか。これまで言われてきた言葉と、今言われた言葉があまりにもかけ離れ過ぎて、私はどちらを信じたらいいのか分からず返事が出来ずにいた。


「だって、でも、お頭は弱い奴が嫌いだって」
「あぁ、嫌いだ」
「っ……そしたら、私のこと…」
「……弱ェ奴は嫌いだ。なのになんで……」


お頭の顔は段々とイライラとしたものに変わっていく。私はマズイ、と思って離れようとしたが、その前に「あぁ面倒くせぇ」と呟いたお頭にぐっと顔を近づけられ、そしてなんと。予想だにしなかった。お頭の唇が私の唇に、これまた乱暴に、ぎゅっと押し付けられた。

何が起きたか理解できず固まる私をすぐにパっと離して、くるりと背を向けた。


「このおれをこんなに翻弄しやがって……。少しはテメェで考えろ!」


怒鳴りながら部屋を出て行ったお頭の耳は確かに赤かった。吐かれた暴言と、突然のキスと、言葉。キャパオーバーになった私は、しばらくその場から動けなかった。




リクエスト内容『弱いヒロインに容赦なくキツイ事を言うがヒロインに惹かれていく自身に戸惑う。切なくて最後は激甘』
リクエストありがとうございました。キャラ指定は無かったので、キッドにしてみました。激甘にはならなくて申し訳ないです。これキッド視点で書けばよかったのかもしれないな…。

補足すると、泣いてる姿を見たキラーがキッドに言い過ぎだって忠告して、あんまりキツイ言葉ばっかりかけてると本当に出ていっちまうぞって叱ったので部屋までわざわざ来たんです。最初は弱い奴なんか好きじゃないしムカついてたんだけど、一生懸命戦う姿に段々惹かれて行って、だけど自分の気持ちに素直になれないキッドは戦闘の度に前に出て怪我しそうになる彼女をなんとか後ろに下がらせようといつもキツイ言葉を使っていただけで、邪険に思っていたわけではないんです。





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