「絶対覚えられねーって」
「まだあと二日あるんだから、大丈夫だよ」
「エースの頭じゃ無理よ、無理」
「お前には言われたくねーよ!」


放課後、二日後にせまったテスト対策の為、私はユキとエースと三人で誰いない教室を使って勉強会をしていた。エースが化学の範囲を全然覚えていないらしく、慌てて頭に入れていた。暗記するなら一人の方がいいのに、と思ったが私も三人で勉強するのが楽しかったから、まあいいかと思って机に勉強道具を広げていた。
三人でわいわいやっていると、がらりと扉のあく音がして私達は一斉にそちらを振り向いた。


「何してんだよい、三人で」
「マルコ先生!」


やってきたのはマルコ先生だった。テスト前に学校に残っている生徒は少ない。どうやら声が聞こえてきたのを不審に思って覗いたみたいだった。
私達がいるのを見ると少し面倒そうに眉を寄せて、だけどこちらへ向かって来た。


「勉強してんのか」
「はい。よく三人でやってるんです」
「あ、今回数学は七花に教えてもらったんでばっちりですよ〜」


ユキが得意げに先生にそう言っていて、なんだか少し気恥ずかしくなって私は目を逸らした。私がユキに教えてあげられるのは、先生に丁寧に教えてもらったからなんだよね、とは言っていないのである。


「あー、もう全然わかんねぇ!マルコ教えてくれよ!」
「エースは何やってるんだよい?」
「化学です。エースってば、全然勉強してなくて…」


私がそう説明しだすと、苦笑して「まあこいつらしいな」と感想を述べた。マルコ先生は私の近くに合った椅子を一つ私達が合わせている机の近くにおいて腰掛けた。どうしたんだろうと思っていると、エースに分かんない問題を見せろ、と言った。


「え、マルコ、化学もできんの?」
「高校の範囲なら、理系全般は余裕だ。ほら、早く見せろい」
「ほんと!?じゃあ私も聞きたい!」


ユキも慌てて教科書を取り出した。エースにいろいろ言っていたが、ユキも化学はわからなかったらしい、二人の様子に私もマルコ先生みたいに苦笑していると、先生は私を見て言った。


「川村も、分からねぇところあったら言えよい。二人より優先して教えてやる」
「なんで七花だけ贔屓すんだよ!」
「お前らと違って、ちゃんと真面目にやってるからだ。わざわざ教えてやるんだから、さっさと用意しろって」


先生はそう言って、エースとユキから何処を教えてほしいか聞き始めた。私は、二人に説明している先生を、自分の勉強をしている合間にちらちらと眺めた。
私だけ、優先して教えてくれるって…。大したことじゃないし、先生もそんなに意味を込めて言った訳じゃないんだろうけど、なんだか少しだけ嬉しかった。私が見ているのに気付いて視線を上げた先生と目が合って、ちょっぴりどきっとした。慌てて目を逸らそうとしたら、逸らす前に先生が優しく微笑んだから、さらに胸の高鳴りが増して、私は少しだけ苦しくなった。



 
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