夜、ひとり部屋の中でお守りを握りしめていた。
ユキの説得に押されてあの場では頷いて返事をしたものの、どうやって先生を誘えば良いか皆目見当がつかなかった。
振られたあの日から半年以上経つ。春には気持ちにフタをして、「もう好きじゃない」と伝えてしまった。それなのに、今更誘うことなどできるはずがない。
写真を送ったっきり一度も連絡をしていない先生とのメッセージ画面を開き、ベッドの上でぼんやりと眺める。
先生が私のことをどう思っているか考えることは、私にとって苦しく辛い時間になる。期待すればするほど、あの日の先生の冷たい言葉が私の心を何度も深く抉るのだ。
二人で映る写真。誰にも見せない、二人だけの秘密。先生の隣に立つ私は、泣きそうな顔をして笑っていた。
誘えるはずがない。だけど気持ちを諦めることもできない。先生の優しさを都合よく解釈したくなる浅ましい心が恥ずかしかった。あれだけハッキリと拒絶されたのに、どうして私は先生のことを諦められないのだろう。
私は何をするのが正解なのか悩み続けて、気が付いたら私は眠りについていた。



ふと、ぼんやりとした意識の中、先生が私を呼ぶ声が聞こえた。

「川村」
「あれ、先生……」

目の前には修学旅行のときの服装のマルコ先生の姿があった。あぁ、ここは夢なのかと合点する。寝る直前まで見ていた写真が、そのまま夢に出てきたのだろう。
夢なら、何を言っても許されるだろうか。

「先生、あの」
「ん?」

優しい相槌が耳元で聞こえる。私は去年二人で見た花火を思い浮かべながら言った。

「今年も一緒に、花火が見たいです」

脳裏に焼き付いて離れない景色。先生の瞳に映る光の欠片。浴衣を似合っていると言って微笑みかけてくれたあの夜は、私にとって大切な宝物のような思い出だ。

「去年と同じ場所で。私、先生が来てくれるの待ってます。だから……」

どーんと大きな音が響く。花火が夜空に咲き乱れていた。先生ともう一度あの花火を見ることが出来たら、そしたら私はこの恋を思い出にできる。そんな気がした。

二人並んで空を見上げて、触れそうになる肩や指先がもどしかくて、心臓がギュッとなる。あぁ、これが現実だったら良いのに。そう願いながら、私の意識は再び眠りの底へと落ちていった。





 
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