「先生!」
「あぁ、川村か」


ユキとエースと仲直りして数日が過ぎた。前みたいに楽しく毎日を過ごす事が出来て嬉しくて楽しくて。私が勇気を出して二人と話すことが出来たのは、先生が激しまてくれたからだ。お礼が言いたくて、お昼休みに先生がいつも一人でいる講師室へと向かった。ノックをしてから扉を開けると、先生は窓際の机でコーヒーを飲みながら作業をしていた。私の姿に気が付くと顔を上げて開いていた教科書を閉じて手招きをしてくれる。


「先生が相談に乗ってくれたおかげで、ちゃんと思っている事を言えたんです。本当にありがとうございます」
「礼を言われるほどのことはしてないよい。まぁ、お前が元気になって良かった」


マルコ先生はそう言っていつものように私の頭を撫でた。何度撫でられても、胸の疼きは無くならない。それどころか、どんどん大きくなっていく。赤らんでいく顔に気付いたが、撫でる手をやめてくれとは言えなかった。

友達と仲直りもできて、先生とも良い関係で、幸せだなあ。そう思っていた。

その時、今まで先生と二人でいるときに他の人が入ってくること一度も無かったこの部屋の扉が開らく音がした。振り向くと、そこには夏休み明けから赴任してきたみすず先生の姿があった。
彼女の姿を見て、マルコ先生は私を撫でていた手をパッと離してしまった。そのことに、小さなとげが刺さったような痛みが芽生える。講師室へと入ってきたみすず先生は私に目もくれずにマルコ先生へと近付き声をかけた。


「やっぱり、ここにいた」
「…何の用だよい」
「学年主任の先生から、これ。預かってたから、早いところ渡して置こうと思って」


先生とみすず先生は同窓らしいという噂を思い出す。親密そうな口ぶりに、胸に刺さる痛みが大きくなる。「あぁ」と短く返事をして書類を受け取るマルコ先生。二人のやり取りは、なんだか通じ合うものがあるように見えた。
予鈴がなる。午後の授業が始まる時間だ。立ちつくしたままの私に気付いたマルコ先生がこちらを向いた。


「ほら、川村。次の授業始まるぞ」
「あ……、はい。じゃあ、失礼します」
「おう。また何かあったらいつでも話は聞くから」
「ありがとうございます」


私はそう淡々と答えて、みすず先生の方を見ずに講師室を出て扉を閉めた。みすず先生は、私がマルコ先生に声をかけられた時からずっと私のことを見ていた。その視線は、なんというか、居心地の悪い不快なものであった。同時に、みすず先生がマルコ先生を見るその視線も、なんだかとても胸騒ぎがして、私は心臓をぎゅっと押さえながら自分の教室へと駆け足で戻っていった。



 
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