ユキに励まされたおかげで、先生を避けるなんてバカなことは止めた。前見たいに挨拶をするようになった私を見て、先生は少しほっとしたような顔をしていた。どうやら、私が先生を避けていたことを、先生自身も少し気にしていたらしい。それが、教師が生徒を心配するただそれだけの優しさだとしても、私にとっては嬉しかった。


季節は過ぎ、新年を迎えて三学期になった。私はユキやエースと変わらず仲良くしていた。ユキはサッチ先生の事はもう吹っ切れたようで、今では普通に先生と接していた。他の先生を慕っていた女子生徒達も、熱が冷めたかのように先生の話などほとんどしなくなっていた。
今日は廊下でエースにたまたま会った為、増やす身に遊んだ思い出話なんかをしていた。チャイムが鳴りエースと別れて教室に戻ると、自分の机の中に誰かからの手紙が入っていることに気付いた。

封筒には私の名前がかいてあった。一体誰からだろう…。授業は始まったけど気になってこっそりと開いてみる。中には『放課後、体育館の今は使ってない方の倉庫に来てください』という文章が書いてあった。そして、このことは誰にも言わないで、とも。
私はをまわりを見渡したけど、誰がこれを書いたのかはさっぱり分からなかった。字体からして、差出人は女の子であることは間違いないだろう。だけど、私なんか呼び出してどうしたいのだろうか。まさか告白、ってことはないと思うけど…。
誰にも言わないで、ってことは他の人には知られたくないってことだし、大事な話なのかな。そう私は思ってユキにこのことを話すのはやめて一人で向かうことにした。


放課後になり、私はユキを先に帰らせて体育館倉庫へと向かった。手紙で指定された使ってない方の倉庫は、体育館のちょうど裏手にあり日が当らなくてじめじめしている。ここはひそかなさぼりポイントとなっていて、不良の子達が煙草を吸っていたりすることが多いのだが、冬は寒さが厳しいためほとんど人が来ることはなかった。

私は倉庫へ着くと周りを見渡した。まだ、誰も来ていないようだ。倉庫は珍しく扉が開いていた。サボり目的の子達が入ってしまわないように、普段は鍵がかかってある場所だ。暇だったのもあって、私はその中にそっと足を踏み入れてみた。
窓は埃で覆われていて、とても薄暗い。数歩中に進んだところで、なんだか薄気味悪くなってやっぱり外で待とうと思ったところ、真後ろから『がしゃん』という大きな音が聞こえた。
慌てて振り返ると、先程まで開いていた扉は閉められていた。嫌な予感がして、扉を開けようと取っ手に手をかけたが、鍵を閉められたらしくびくともしなかった。


「え、嘘、どういうこと……!」


びっくりして扉をガンガン叩いていると扉の外から声が聞こえた。


「あんたさ、最近ちょっとエース君と仲良すぎなんじゃない?」
「調子乗んなよ、ブスのくせに」
「エース君は優しいだけだから、勘違いなんかしないでよね」
「明日になったら鍵開けてあげるから、そこで一晩頭冷やしてな!」


複数の女の子の怒ったような声。聞こえてきた言葉を要約すると、つまり、彼女たちはエースのファンで、最近エースと仲が良い私に嫉妬して、こうやって閉じ込めたということ………?
じゃあ、あの手紙は私をここへ呼び出すための罠だったんだ…!今更ながら、こんな古典的な策にはまるなんて、自分の馬鹿さを呪いたかった。だって、どう考えてもあんなの怪しかったじゃないか。

彼女たちの足音が消えた後、私は自力で脱出できないかと扉を動かそうとしたが、錆びた重い扉は本当に一ミリも動かなかった。倉庫の窓はとても高い位置にあり、しかも人が通り抜けることが出来るような大きさではなかった。私はため息をついて、しょうがないから誰かを呼ぼうと携帯を取り出そうとして気付いた。

携帯、鞄と一緒に教室に置きっぱなしだ……。

そんなに長くかからないと思って、荷物を全部教室に置きっぱなしであることを思い出す。どうしよう、これじゃあ本当に、私は明日の朝までここにいなきゃいけないの…?
冬にこの倉庫に近付く人なんていない。見回りの警備員だって、ここには来ないかもしれない。
それに、今だってかなり寒いのに、夜になって日が沈んだら温度はぐっと下がるだろう。とてもじゃないけど、一晩過ごせるような場所ではない。
私は扉をがんがんと叩きながら、誰かいないかと大声で叫んだ。日没まで、時間の余裕はほとんど無い。窓から差し込む光がどんどん弱くなっていく。どうにか日が沈む前に誰か来ないかと、私は叫び続けた。


声を出し続けて、どれくらい経っただろう。喉はカラカラで、声出すのも辛くなってきた。日もとっくに暮れて、倉庫の中は真っ暗だった。
体中に鳥肌がたっていて、両手で身体をさすっていた。かろうじてコートは着ていたが、それでも体温がどんどん下がるのを感じる。せめてマットや暖を取れるものがあれば…。そう思って狭い倉庫の中を探るが、あるのは壊れたハードルや空気の抜けたボールばかりで役に立ちそうもなかった。

なんで私がこんな目に……。顔も分からない私を閉じ込めた女子達を思い浮かべながら、誰かが私を助けに来ることを願っていた。誰か、誰でも良いから。寒い、寒い、凍えてしまう………。
私はしゃがみこんで、身体を抱えた。今何時なのかもわからない。今よりも寒くなったら、どうすればいいんだろう。涙が一滴頬を伝った。

その時、外から誰かの足音がした気がした。




 
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