プラトニック | ナノ

それでも満ち足りる日々


前の椅子の上に落ちていたのは、お守りだった。多分、さっきまでそこで勉強していた高校生っぽい男の子のものだろう。…ちょっと怖そうな子だったけど。

図書館の自習室は私のお気に入りだった。静かで、自分だけの世界を作れる。大学の図書館だと知り合いが多くて落ち着かないことが多く、大学と駅との中間にあるこの図書館に来ることが多かった。駅からもまあまあ近いためにいつもそれなりに混み合っていて、お守りの持ち主であろう少年も、よく見かける常連の子だった。
私は幾分か悩んだ末、時間も丁度いいくらいだったので席を立つことにした。去り際、前の席に落ちていたお守りを拾った。

拾ったはいいものを、彼がどこの誰だかさっぱり分からない。制服からして、多分の近くにある高校の生徒だろう。分かるのはそこまでだ。名前も、学年も知らない。
やっぱり、あそこに置きっぱなしの方が良かったかな、と思ったところで少し先の自転車置き場から出て行くあの少年の姿が見えた。私は急いで追いかける。


「あ、ねえそこの君!」


思ったよりも、大きな声が出た。そして、振り向いた少年は。


「…俺?」


自転車を押す手を止めこちらを怪訝そうに見る。私は彼の前に着くと息を整えてからお守りを鞄から取り出し、言った。


「これ、君のじゃない?」
「……?あ、それ…!」


少年は思い出したように自分のスクールバッグを見た。そこにはお守りがついたであろう切れた紐が付いていた。


「やっぱり。良かった、持ち主見つかって」


私がそう渡しながら言うと、少年は少し顔を俯けて答えた、


「…ありがとう、ございます」


その少年はそのまま帰ってしまった。
ちゃんとお礼は言えてたけど、もう少し愛想良くしてもいいじゃないか。少し不満に思いながらも、私は来た道を戻った。







少年に落とし物を渡してから数日後。私はいつものように図書館に行った。違ったのは、今日に限って利用者が多く、自習室に入ったはいいものの、空いている席がなかったのだ。
しょうがなく図書館を出て、カフェかどこかに行こうとした。その時、後ろから小声だが呼び止められた。


「おい、ここ使えよ!」


声の主はこの間の少年だった。彼は言いながら隣の椅子に置いていた荷物をどけて席を空けてくれた。
私が戸惑っていると、何を勘違いしたか少し吃りながら彼は再び言った。


「あー…、えっと。ここ使っていいっすよ」


敬語をあまり使い慣れていないのだろう。私は少年のそのちょっと不器用な感じにくすりと笑いながら、彼の隣に腰掛けた。


「ありがとう」
「別に。この間の礼……です」


とってつけたような「です」にまた笑いが込み上げる。見た目はちょっと怖いし無愛想だけど、根はいい子なんだろうな。
広げられたノートと参考書と睨めっこする少年は、なんだか可愛かった。



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