連れてこられたのは隊長の部屋だった。


「あの、隊長…。仕事は大丈夫なんですか?」
「サッチに任せた。とりあえず、そこ座れよい」


私はうながされるままベッドに腰掛けた。
深刻な話…だからここに連れて来たんだよね……。サッチに慰められたものの、やっぱりフラれるんじゃないかって不安が首をもたげる。ああ、こんなことなら付いてこなければよかった。どきどきと嫌な鼓動が胸を走る。


「悪い」
「…え?」
「いい歳して、自分がこんな感情持つなんて思わなかったよい」
「えっと、どういう…」


隊長は気まずそうな顔をして眉間にしわを寄せて、視線を逸らしながら言いづらそうに言った。


「エースが言ったことは、本当だよい」
「………!そ、それって」
「昨日夜、お前の部屋に行った時にはお前はもう寝てた。…嘘吐いたのは、お前が寝てたことに苛立ってたからだよい」
「あ、え、ごめん、なさい」
「謝るなよい。苛立ってたっていうのは、だから…。ああ、めんどうだ!」


私が謝ると、隊長はそう声を荒げて、そして私をぎゅうと強く抱きしめた。
突然の事に、私は固まってどういう風に反応すればいいのか分からなかった。隊長の心音が聞こえる。私の鼓動と繋がる。体温が、滲んでいく。


「俺だって、ゆっくりとお前と話したかったんだよい。それで仕事も他人に任せて、なるべく早くってお前の部屋に向かったのに、寝てるから…。大人げなく、お前に八つ当たりみたいにしちまった」
「え、そんな…嘘…」
「嘘じゃねぇよい。なぁ、お前はどうして俺が好きなんだ?お前は若い、まだ世界も男も大して知らねえだろ。歳の差っていうのは、どうしたって埋められねぇし」
「隊…長……」
「お前の言葉とか行動とか、全部鵜呑みにできるほど、俺は若くねぇんだよい。お前が思ってるより、俺は臆病で、それでもお前は俺の事、好きって言えるのかい」


初めて聞く、隊長の本音。私を抱きしめる腕の力は強いけど、とても弱く感じた。
本当に、サッチの言うとおりじゃないか。隊長は、ちゃんと私の事を想っていてくれた。私が気付けなかっただけで、隊長は私の事を考えてくれてて、それで不安ににもなっていたんだ。
私は、おずおずと、隊長の背中に腕をまわして遠慮がちに抱き返した。


「入隊した時からずっと、隊長だけを見てきたんです。そりゃあ、最初は憧れだったかもしれないけど…。約束したのに部屋に来てないって言われて、私の中で不安に思ってたことが爆発して、一人で勝手に勘違いして…昼間は『帰って下さい』なんて言っちゃって……、ごめんなさい」
「謝るのは俺の方だよい。俺が意地張って無けりゃ、お前が泣く必要もなかったのに」


隊長は優しく私の髪の毛を梳くように撫でる。こんなに優しく触られたのは、もしかしたら、初めてかもしれない。どきどきと心臓がさらに音を大きくたてる。


「さっきも、話聞くまではずっと別れ話されるんじゃないかって、びくびくしてたんです」
「言葉足らずだったな、俺が」
「私は、隊長が言うとおり若いし、頭も悪いから。隊長の事を好きっていう気持ちを、そのまま伝える方法しかわかんないんです。でも、その気持ちに嘘なんてないし、私は隊長が隊長だから好きなんです。隊長じゃなきゃ、だめなんです…」
「お前の気持ちを、疑ったわけじゃあねんだ。ただ、俺がおっさんだから、臆病者だから、お前の気持ちを素直に受取れなかったんだ。本当に、悪かったよい」


さらに抱きしめる力が強くなった。私も、同じだけの力で抱き返そうと腕をぎゅうと締める。
隊長が好き。私はそう呟いた。好きなんです、大好きなんです。馬鹿の一つ覚えみたいに、私はそう言い続けた。


「俺も、なまえが好きだ」


私は頷いて、隊長の誇りが刻まれた胸にぎゅうと顔を押し付けた。隊長は私のおでこに唇をくっつけて、小さなキスを落とした。

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