「何してんだよい」
「たっ、隊長!」
隊長の部屋の近くでうろうろとしていると、まさかの本人に話しかけられる。後ろからいきなり声をかけられたため、びっくりしてうろたえてしまう。
「俺になんか用でもあるのか?」
「あ、えっと、その…」
「とりあえず入れよい」
「え、え…でも!」
断ろうとする前に背中を押され、隊長の部屋に足を踏み入れる。
用があったというか、先ほど頼まれた仕事を終えた報告をしたかっただけなのだが。
想いが通じ合ってからも、むしろその後の方が、隊長と話すのに緊張してしまう。心拍数が上がって、顔が熱くなって、普通になんてできない。
「っ!」
そんな私を知ってか知らずか。扉を閉めて部屋に二人きりになった瞬間、隊長が私を後ろから抱きしめてきた。思わず、息を止める。隊長のたくましい腕が、お腹にまわって、体温を感じる。
「隊長っ、あの…」
「ん?」
「その…私、報告をしにきただけなんで、あのっ」
ぎゅう、と先ほどより抱きしめる腕がきつくなる。もう、心臓がおかしくなりそうなぐらいバクバクいっている。
挙動不審になりすぎている自覚はある。だけど、どうやっても「普通」に接することが出来ないのだ。
「なまえの心臓の音、すごい」
「だ、だって…」
「緊張、してんのかよい?」
「…っ、当たり前じゃないですか。隊長に、抱きしめられてるんだから、仕方ないじゃないですか…」
絞り出すように言うと、隊長が少し笑ったような気がした。
「本当に、困ったよい」
「え?」
「なまえが可愛すぎて、理性がもたねえ」
「なっ…」
可愛い、という言葉に反応してしまう。理性が持たないって、どういうこと。
ますます上がる体温に、自分自身で火傷してしまいそうだ。
「なまえ」
「な、なんですか?」
「キスしていいか?」
「え、」
驚いて振り返ったら、すでに隊長の顔がすぐそこにあって、理解する前に唇同士はくっついていた。
一瞬の事で、すぐ離れたけど。私の心臓はもはや破裂寸前だった。
「顔真っ赤」
「……っ、隊長のせいですもん」
「可愛いよい」
「また、そういうこと言うっ」
「ったく、これ以上可愛い反応されると、俺が困るよい…」
隊長はひとり言のようにそう呟く。態勢は相変わらず、キスしたあとすぐ正面を向きなおしたから、後ろから抱きしめられている格好のまま。
背中にくっつく隊長が、鼓動をどんどんどんどん急き立てる。
「わ、私だって、これ以上は無理です…。心臓がもたないです」
涙目になりながらそう訴えると、隊長はくすりと笑って腕を少し緩めてくれた。そのことに私は少し平常心に戻って、……少し淋しい感情を持て余した。
「まあ、そのうち慣れるよい」
なんだか自分が情けなくなりごめんなさいと呟くと、隊長は優しく頭を撫でてくれた。
その感触がとても気持ち良くて、緊張はするけどやっぱり隊長が好きだなあと感じた。