31


濁った水の中に浮かんでいるようだった世界が、一瞬にして鮮明に映し出される。
どうして、どうしてこんなにも大事な気持ちを忘れていたのだろう。ミホークさんの腕の中で泣き出した私は、こぼれる涙を止める術を知らなかった。


「ミホークさん…」


少し離れて、そして彼と見つめ合う。好き、好き、好き。苦しいほど胸を締め付ける感情に、私をぎゅっと目を閉じた。
何も言わなくても、全て伝わったのだと思う。瞳を閉じて一秒も経たないうちに、ミホークさんは優しく私に口付けた。

唇から、熱が、想いが、伝わる。彼が好き。何よりも、誰よりも。溢れ出す愛しさ故に、私はミホークさんの首に腕をまわし、自分からさらに強く口付けた。


「思い出したか」
「はい……。全部、ちゃんと、わかります」
「そうか」


背中に腕をまわされて強く抱きしめられる。混じる体温に私もなんとか抱き返そうとした。

ペローナちゃんのようにどこからか飛んで来たゾロ君にぶつかった衝撃で、ミホークさんの存在を、彼との思い出を全て忘れてしまった。それは、つまり彼の事を強く考えていたということなのではないだろうか。
城に帰ってきて私が全て覚えていない事を知り傷付いたような表情をしたミホークさん。それでも変わらず私に接してくれて、私に口付けそして好きだと言ってくれた。彼はとても優しくて強い人だ。


「ごめんなさい、私、ミホークさんのこと忘れてしまって…傷付けてしまって…」


謝る私の頭を優しく撫でて彼は笑った。


「好きだ、なぎさ」


耳元に落ちる言葉が、私を震わす。彼を思い出せなかったときも、ずっと、胸にくすぶっていた感情。例え思い出せなくても、私は再び彼に恋をしただろう。優しく、大切に扱われることがくすぐったくて、恥ずかしくて、例えようもなく嬉しい。
私はようやく、自分の気持ちをこの口で伝えられるのだ。


「私も、ミホークさんのことが、好きです」

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