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本を開いたものの、何故か集中出来ずに私は幾度も顔をあげて打ち付ける雨を見ていた。若干雨にうたれたせいで、ページに時折髪の毛から落ちる雫が煩わしい。だけど、自分が読書に集中出来ない理由がそんなことではないことくらい、わかっていた。雨。微かに触れることのできる記憶。

時間が経つ程に心細い気持ちが増していく。なんだろう、この胸を締め付けるような孤独感は。自分の居場所を見失ったような、寂しくてつらくて泣きたいような、そんな気持ち。
ふと、頬に生暖かい雨がおちた。………私、泣いてる…?
自分でコントロール出来ない感情に戸惑っていると、すぐ近くに足音が聞こえて、そして彼が名前を呼んだ。


「なぎさ」
「………ミホーク、さん」
「ここで、何してる。…またお前は、泣いてるのか」


現れたミホークさんは傘をさしていた。デジャヴ。この光景を、私は…。

途端に、頭を強く打ったような激しい痛みと音が脳に響いた。立っていられなくなり、頭を抱えてうずくまる。がんがんと鳴り響く地鳴りのような音と共に、様々な記憶が蘇ってきた。

屋上からの落下。目覚めてからの戸惑い。真夜中の口付け。飛び交う光の中でのキス。手を引かれて歩いたこと。私を守る心強いその背中。観覧車の中で合わさる唇。「お前は本当に不思議だな」と面白そうに幾度も言われた事。「じゃあな」と言った彼にひどく寂しくて切ない想いをしたこと。

そうだ、私の今目の前にいるのは、彼の名は………。


「ミホーク、さん。私………」
「なぎさ」


ミホークさんは優しく私の名前を呼んで、地面にへたり込んだ私の視線に合わせるようにかがんでくれた。どくん、と高鳴る胸。そっと背中に腕をまわして、耳元で囁く。


「おれはお前を、ちゃんと見つけた」

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