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「おい、なぎさ。…聞いてるか?」
「え?あ、ごめんゾロ君、うん。ちゃんと聞いてるよ?」
「…」


ゾロ君は呆れた顔をして、素振りを再開してしまった。私は再度謝って、ゾロ君から少し離れた場所に腰をおろして読みかけの本に目を戻した。

ミホークさんにキスされてから何日か経った。ご飯の時や、廊下ですれ違ったりとか、ミホークさんに会うたびに顔が熱くなって、目なんか絶対合わせられない。だけど、気付いたら彼の背中を目で追ってて、それに気付いたミホークさんがこちらに視線をよこす度に、私は慌てて目を逸らす。そんなことを繰り返していた。

今も、本を呼んでいるはずなのに、何時の間にか上の空。ふとした拍子に考えてしまうミホークさんのこと。思い出してしまうあの日のキス。また体温が上がっていく。私は首をぶんぶんと振って邪念を払おうとした。


「…何してんだ?」
「読書に集中しようとしてるの。ゾロ君、何処か行くの?」
「ああ、ちょっと鷹の目のとこに行ってくる。…お前も行くか?」


歩き出したゾロ君はそういって私を振り返ったけど、私は勢いよく頭を振って「いかない」と答える。そんな私を訝しげに見て、ゾロ君は「何かあったのか?」と私に聞いた。


「何かって?」
「最近、お前変だろ。あいつが近くにいると」
「そ、そんなこと…」
「まあ別にいいけどよ。なんか困ってる事あんなら、言えよな」


がしっと、ちょっと痛いくらいの力でゾロ君はかがんで私の頭を撫でた。「痛いよ」と言うと、ゾロ君は笑って「じゃあな、ほんと何かあったら、ちゃんと話せよ」と言って立ち上がり、城の方へと戻って言った。

ゾロ君は、がさつでまさに男の子、って感じ。不器用だけど、すごく優しいし…。前に少し話してくれた仲間の事、きっとゾロ君にとってはとても大切な人達なんだと思う。
少し前まで、自分が抱いていた淡い感情は、ゾロ君に対するものだと思っていた。剣を振るう彼の姿に恋焦がれているのだと。だけど、違う。ゾロ君と一緒にいるのは楽しいけど、この気持ちは違うのだ。何かが分かりそうな気がしていた。勘違いしていた、この想いは、本当は………。


「……………雨…?」


ぽつり、と水滴が頬に落ちた。見上げると、空は黒い雲に覆われていて、帰らなきゃと立ち上がったところで、大粒の雨が降り出して来た。
私は慌てて近くの木陰に避難する。いきなり降り出した雨は、あたりの地面を強く打ちつけて、走って帰ったら確実にずぶぬれになりそうな勢いだった。しょうがない、ここで雨宿りしてよう。

私は木に寄りかかって、雨がやむまでここで本を読むことにした。

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