26


ゾロ君が正式にこのお城に居候するようになって二週間ほど過ぎた。
ここでミホークさんに稽古をつけてもらうことになるまで少しもめたりもしたが、なんだか良く分からないけれどミホークさんはゾロ君を気に入ったらしく、今は日中はずっと二人で鍛錬をしている。

私はといえば、相変わらず記憶は戻らず、本当に私が記憶を失っているのかどうかさえ危ういくらいだった。ペローナちゃんは早く思い出せ、と会うたびに言うけれど、私が一体何を忘れていたのかが分からないのだ。
図書室で本を読み、色々な対処法を試してみるが、どれもあまり上手く効果は出ていないようだった。
私はひとまず諦めて、そのうち思い出すだろうとのんびり構えることにした。


「じゃあ、私ゾロ君達呼んでくるね」
「おう、頼む」


食事の準備が整ったため、私は外で稽古をしているミホークさんとゾロ君を呼びにお城の外へと出た。
少し歩くと、開けた場所があって、そこに二人はいた。ゾロ君は全身汗でびっしょりである。何やら話しているが、きっとこの隙に話しかけるべきなのだろう。


「あ、あの!二人とも、ご飯出来たんで一旦お城に戻りませんか?」


声をあげて二人の元へと駆け寄ると、やや驚いたようにこちらを見た。どうやら、私が着た事に気付かなかったらしい。珍しいな、なんて思っていると、二人は丁度良いタイミングだったらしく「じゃあ行くか」とお城へと歩き出した。
三人で無言のままお城へ向かう。辿りつくと、ゾロ君は先に一旦シャワーを浴びてから行く、といって風呂場へと向かっていった。

残された私は、ミホークさんと若干気まずいながらも食堂へと向かう。


「なぎさ」
「は、はい。なんでしょう?」
「…まだ何も思い出さないか」
「えっと……、ごめんなさい…」


私は申し訳なくなり頭を下げる。
ミホークさんを見上げると、どこか寂しそうな顔をしていた。彼のそんな顔をみることは珍しいから、とても意外に思ってしまう。ゾロ君に稽古を付けているときと違って、とても優しくて切ない表情。


「あの、良かったら私が何を忘れているか教えてくれませんか?」
「…それは出来ない」
「え、なんで…?」
「お前が自分で思い出さなければ意味のないことだからだ」


自分で思い出す事が難しいから、聞いたのに。それに、ミホークさんが私の記憶がないことに悲しそうな顔をするから、だから早く思い出したいと思ってきいたんだけどなあ…。そうは思っても口に出すことはせず、私はまた頭をちょこんと下げた。


「ごめんなさい」
「謝る必要はないだろう。まあ、ゆっくり思い出してくれればいい」
「はい、頑張ります。………あ」
「なんだ?」


ふと思いついた事を私はミホークさんに聞いてみる。食堂はまではあと少し。ペローナちゃんがきっと食事をテーブルに運んでいる最中だろう。


「あの、私とミホークさんって、一体どういう関係だったんですか?」
「……」
「兄妹…ではないだろうし、親戚……とか…?ペローナちゃんに聞いてもうんうん悩むだけで応えてくれないし……」


私の問いかけに、ミホークさんも困ったように首をひねらした。そんなに変な質問だっただろうか。質問がよくなかったかな、と思い始めた事、ミホークさんはゆっくり呟いた。


「なんだろうな……、おれも分からない」
「そう、なんですか」
「…ただ、おれにとってお前は特別な存在だ。例え何も思い出せなくても、それは変わらない」


彼は私の髪の毛をさらりと撫でて、そして先にいく、と足早にそこを離れた。
触れた指先に、私はデジャヴを感じる。知っている、この感触を。私は、覚えている。

ミホークさんの言った、特別、という言葉に胸が高鳴っているのに気付いた。それがどういう意味の特別なのかはわからないけれど、思い出したいと強く思った。私が忘れている何かは、きっとすごくすごく大切なことで、とても大事なものである気がした。

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