25


自惚れていた訳ではない。だが、彼女が一番に出迎えてくると期待はしていた。
別れ際にした口付けで頬を真っ赤に染めて、だけど最後に小さく切なそうに手を振った彼女に、期待しない方がおかしいというものだろう。


「…………なぎさは」
「待てミホーク、これには深い事情があってだな…」
「…まさか」
「そういうわけではない!怪我とか、そういう類ではないから殺気をしまいやがれ!」


城に帰ると、ゴースト娘が焦ったように出入り口のところで迎えてくれたが俺が待っていたのはこいつではない。煮え切らない態度を取るゴースト娘に痺れを切らし、自ら探しに行こうとしたところで、大広間にある大階段から声が聞こえた


「だから、出歩いちゃだめだって。安静にしてなきゃ!」
「もうほとんど治ってんだから、放っておけよ」
「治ってないよ!やっと起きれるになったばっかりなんだよ?」


誰と話しているんだ、と訝しげに階段を見るおれとさらに焦り出すゴースト娘。「言っておくが私は何も悪くないからな」と呟いたのと同時に、階段に姿を現したのはかつて東の海で対峙した剣士と、なぎさだった。


「な…、なんでお前がここに……!」
「…?ゾロ君、知り合い?」


おれを見て驚愕するロロノアときょとんとするなぎさ。何故こいつがこの場所にいるのかも、なぎさが予想と違う反応するのかも、おれにはその場では理解できなかった。
なぎさをじっと見ると、睨まれたと思ったのが竦んでロロノアの陰に隠れるようにこちらをうかがった。
何かがおかしい。なぎさは一体どうしたのだというのだ。おれは隣にいるゴースト娘を見た。彼女はため息をついて、私は悪くないからな、と再度念を押すように言って事情を説明しだした。





ミホークさんという人は世界一の大剣豪で、現在この城の主らしい。ゾロ君とはずっと昔に戦って、そして惨敗したと言っていた。
どうやら私とペローナちゃんとミホークさんは一緒に暮らしていたらしくて、だけどそのことを全然覚えていないと言ったらミホークさんは悲しそうな顔をした。最初に見たとき、彼のことを凄く怖いと思ったから、そんな人がこんなに辛そうな顔をするなんて思いもしなかった。
申し訳なくも思ったけれど、思い出せないものはしょうがない。彼に見つめられるのは、なんだか居心地が悪くなる。私はなるべくミホークさんと目を合わさないようにして生活をした。


「お前、あいつと知り合いなのか?」
「あいつって、ミホークさん?」


一人で鍛錬をしているゾロ君と一緒にいる事が多い私は、彼にそう聞かれて曖昧に頷いた。


「知り合い…なんだと思う。わかんないけど」
「わかんないって…、ああ、おれのせいでお前記憶が飛んでるんだもんな」
「そうだよ!もう、すっごく痛かったんだから」
「いや悪いとは思ってるけど、あれは不可抗力で…」


彼と話すのは楽しい。それは、ペローナちゃんと話す時と似た楽しさでもあった。権を握る彼とただ一緒にいてこうして話していると、なんだか飛んでしまった記憶が戻ってきそうな気がするのだ。
だけど、何処かひっかかる。感じる違和感。私が一緒にいるべきなのはゾロ君じゃないって、頭の隅で誰かが必死に訴えているような…。


「なぎさ」
「え?」
「ぼけっとしてたぞ、アホ面」


頭を少し乱暴に撫でながら笑ってゾロ君はそういった。私は曖昧に笑ってご飯を食べに行こうと誘って立ち上がる。
思い出したい。飛んでしまった記憶の中にある感情を。私の頭を撫でる手の持ち主を。

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