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突如現れた緑頭のアイツを城に運んですぐ、なぎさも足元がふらついたかと思うと倒れこんでしまった。やはり頭を打っていたようだった。
倒れてしまったなぎさを見て私は顔面蒼白になりながらもアイツはそっちのけでなぎさの看病をした。幸い数時間後には目を覚まして、食欲もありぶつけた後頭部以外痛いところはどこもないと言っていたから一安心したものの、より厄介なことが起こっていることにその時の私はまだ微塵も気付いていなかった。


「本当に大丈夫だな?」
「大丈夫だって、心配性だなあペローナちゃん」
「お前に何かあると私が痛い目に合うんだよ」
「…どういう意味?」


きょとんとするなぎさに溜息をつく。わざと聞き返しているのだろうか。わざわざ言うのも面倒だと思い私は立ち上がって部屋を出て行こうとした。すると、なぎさもベッドから起き上がり付いて来ようとしたのがわかった。


「どこいくの、ペローナちゃん」
「…お前が拾うって言ったアイツの世話だよ」
「アイツ?」
「アイツが飛んで来たせいで頭を打ったの忘れたのか?」
「……?」

よくわからないという顔をしているなぎさに、もしかしたら少し記憶が飛んでいるのかもな、と思った。あれだけの衝撃でぶつかったんだ、無理はない。
私は安静にしてろと言ったが、なぎさは構わず付いて来たので一緒に向かうことにした。
部屋に着くと、アイツはベッドの上で静かに寝ていた。なぎさと近付くと、ゆっくりと目を覚ましてソイツは言った。


「………てめぇは」
「殺気をしまえ馬鹿野郎!いきなり飛んで来たお前をわざわざ運んで看病してやったんだぞ!感謝するべきだろ!」
「飛んで来た……?」


一瞬出しかけた殺気をしまって、ソイツは記憶たどるように考え始めた。めんどくさいと思ったがどうやら納得した表情になって、しかしすぐさま身体を起こそうとした。


「おい待て動くな!いきなり焦り出してどうした!」
「あいつらが、まだ戦ってるかもしれねぇ…!」
「あいつら?」
「動くなって!あいつらって麦わら達のことか?」


なぎさと一緒に動こうとするソイツを抑える。なぎさが困ったように顔を覗き込んで、ソイツに話しかけた。


「ねぇ、名前はなんていうの?」
「…ロロノア・ゾロだ」
「じゃあ、ゾロ君。傷が治るまで、動くのは駄目だと思うの」
「そうだぞ!それに大方お前、くまに飛ばされてきたんだろ。他の奴らもそうだったりするんじゃねぇか?」
「…そうかも、しれねぇ」
「じゃあ多分大丈夫だ。飛ばされるだけだったら、傷はつかないはず。お前のその傷はよくわかんないけどな」


ロロノアの対応は面倒だった。どうしてなぎさがそんなに気にかけてあげるのか分からなかったが、私は疲れたと言ってソイツの看病をなぎさに丸投げして部屋を出て行った。





「ゾロ君、駄目だって動いたら」
「もう傷は治ってんだからいいだろ」
「治ってないんだって。痛みはなくなっても、もう少し安静にしてなきゃ」


ゾロ君の寝ている部屋をのぞくと、彼はまたトレーニングを始めようとしていた。私が現れた事に舌打ちしたけど、一応素直に従ってベッドに座りなおしてくれた。

彼が現れてから三日が経った。こんなに早く動けるようになるなんて思わなったけれど、彼の治癒能力は相当高いみたいだった。
私は暇になると、彼のもとへ来てこうして一緒にご飯を食べたりお喋りをしていたりする。勝手に動いて傷の治りを遅くしないよう見張る為でもあるけど、私がゾロ君と一緒にいたい、と少しだけ思っているから。

出逢って間もないはずなのに、何故かゾロ君には親近感を沸く。何も知らないのに、彼が今までどんな旅をしてここに辿りついたのか、知っているような感覚なのだ。
私自身、何故自分が今ここにいるのかよくわからない。ここが何処かもいまいち分からない。そのことをペローナちゃんに話すと、ゾロ君がここへ来た時に私にぶつかって、その拍子に頭を打ってそのせいで記憶が幾らか飛んでいるのだろうと言っていた。
確かに、記憶の中にぽっかりと穴がある感じがする。大事な何かを忘れているような、そんな感覚………。

ゾロ君と話していると、扉が開いてペローナちゃんが入って来た。私が部屋にいるのを見ると、少し怪訝そうな顔をしてそして私の腕をぐいっと引っ張った。


「行くぞ、なぎさ」
「え、ペローナちゃん?」
「いいから早く」
「どうかしたの?あ、じゃあねゾロ君、またあとで来るから。ベッドから動いちゃ駄目だからね」
「…努力はする」


ゾロ君の返事に私は不服ながらも、ぐいぐいと結構強い力で引っ張るペローナちゃんに連れられて外の廊下へと出て行った。
少し歩いたところで、ペローナちゃんは少々怒ったように私を振り向いた。


「ど、どうしたの…?」
「お前、あいつに心変わりしたのか?」
「心、変わり?」
「さっきミホークから手紙が届いた。通信機関もだいぶ混乱してるみたいで届くのが遅くなってたから、多分二日以内には帰ってくると思うぞ」
「……えっと、それって…」
「…………お前、まさか」


怒った表情から、今度は驚いたように顔を青ざめるペローナちゃん。こんなに表情をコロコロと帰る彼女は珍しいために、私は自分がよっぽど変な事を言ったのかもしれないと、自分の発言を思い返してみるが、特に変なところは見当たらない。はてなマークを浮かべ続ける私に、ペローナちゃんは驚愕したように上ずった声で呟いた。


「ミホークのことも、忘れたのか……!」
「その、ミホークって、えっと……」


人の名前だろうか。心当たりの無い名前に首をかしげると、ペローナちゃんは「これは、相当まずいな」とまた呟いて冷や汗をたらりと流した。

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