22


「何かあったら呼べ。すぐに向かう」
「大丈夫ですよ、ペローナちゃんもいるし」
「そうだ!みくびられたら困る!」


私達が出航する前に、ミホークさんは見送りに来てくれた。来たばっかりなのに早速帰るだなんて、随分と慌ただしい旅になってしまった。
ミホークさんは私に帰るまでの間のことや城での事だとか色々注意やらなんやらを話して、一通り伝え終わったところで私の頭に手をのせた。


「しばらくは帰れないから、その間、ちゃんと留守番してるんだぞ」
「…なんだか、子供扱いされてるみたい」
「心配してるんだ」


ミホークさんは優しく笑って、私の腕を引っ張って軽く引き寄せた。何かと思って彼の方へ顔を向けると、ちゅ、と軽く私の唇にキスをした。
突然の事に、私はぱっと離れて唇を手で覆った。な、何を……!


「では、行ってくる。ゴースト娘、なぎさを頼んだぞ」
「っけ、最後までいちゃつきやがって!そんなの、わかってる!」
「じゃあな、なぎさ」


最後にもう一度私の頭をぽんぽんと撫でると、ミホークさんは船から離れた。それと同時に、船が出港の合図の汽笛を鳴らした。
私は固まって赤くなったまま、ミホークさんを見つめていた。み、みんながいるところで、どうしてミホークさんはこうやって………!恥ずかしさでいっぱいいっぱいだったけど、私は小さくミホークさんに手を振った。だんだん小さくなって行く彼を、私は淋しい気持ちで見つめていた。


「あれでどうして恋人じゃないっていうんだ。私には全く理解できない!」
「そ、そんなこと…」
「帰ってきたらちゃんと言ったらどうだ?そしたら、私も苛々しないですむかもしれない」


ペローナちゃんは私達がいちゃつく(自分ではいちゃついてるつもりはないのだが)のを見ると、いつもこうして機嫌が悪くなる。もちろんそれは本気ではないにしろ、私も少し居心地が悪くなる。
ミホークさんがどういう気持ちでキスをしたのかは分からないけれど、少しは期待してもいいのかな…?私はそんなことを想いながら、船内へと入ったペローナちゃんを追いかけた。


「待って、ペローナちゃん」


追いつくと、ペローナちゃんは私の顔を見てまた溜息をついた。


「昨日の夜からずっとにやけっぱなしだぞ、なぎさ」
「そ、そうかな?」
「あぁ、夜遅くまで何処に行ってたんだ?」
「あ、えっと…」
「悪い!今のは野暮な質問だったな!」


思いついたようにペローナちゃんはにやりと笑ってそう言った。私はそれを慌てて否定する。


「何もないよ!ただ二人で遊園地の観覧車に乗っただけで…」
「ふうん、観覧車に乗ったのか」
「うん、それだけ…だよ?」
「で、そこでもキスされた訳だ」
「!」
「図星だったのか……」


ペローナちゃんが言いあてた事に私は驚愕を隠せないでいた。

確かに昨日の夜、私は観覧車の中でミホークさんにキスをされた。
とても綺麗な景色だった。しゃぼんが地上の明かりが反射していて、あたり一面がきらきらしているように見えた。私はその光景にはしゃいで、窓からずっとあたりを見渡していた。そして、頂上付近になったとき、ふいにミホークさんに名前を呼ばれたのだ。


『なぎさ』
『はい、なんでし………』


観覧車の中は思ったよりも狭かったから、向かい合わせに座っていてもお互いが身を乗り出せば鼻先が触れ合うことなんて容易かった。ミホークさんは私の顎に手をかけてこちらを軽く引き寄せて、そして気付くと唇が重なり合っていた。
きらきらの風景の中に浮かぶ一つのしゃぼんの中で、私はミホークさんとキスをしている。その事実がはじめはあまり飲み込めず、しばらくの間固まっていた。一旦顔を離したミホークさんの表情は、真剣で、とてもかっこよかった。私は何か言おうとしたが、その前に再び口付けられた。

それから、地上に降りるまで、私達は何度も軽い口付けを交わし合った。その行為に意味があったかどうかなんて分からないけど、少なくとも、私にとってはとても幸福な時間だった。


「そこまで手を出しといて、なんで肝心なところを言わないんだろうな」
「…ミホークさん、私の事、す、好きだと思う………?」
「あれで好きじゃなかったら、ただのクソ野郎だな、あいつ」


私はクマシーもモリア様にも会えないしで寂しいって言うのに……、とペローナちゃんが何やらぶつぶつ呟いていたが、私は一人昨日の夜の事を想い返した。
ミホークさん、私の事、好きかな?でもきっと、ペローナちゃんもそう言ってくれてるし、万が一だけど、もしかしたらだけど、私の事、好き…とか、思ってくれているかもしれない。

帰ってきたら、聞いてみよう。私は心の中で小さく決心してみる。私はミホークさんのことが好きですけど、ミホークさんは私の事どう思っていますか…?って。そう聞いてみるんだ。

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