21


華麗な手さばきであっという間に男達を片付け終わると、ミホークさんはすぐに私の元へと駆け寄って来た。


「怪我はなかったか?」
「あ、はい、おかげさまで…」
「おれのせいで危ない目に合わせた、すまない」


ペローナちゃんから奪い取るように抱き寄せられて、私はばっと顔に熱が集中したのが分かった。また、ペローナちゃんに何か言われちゃう。そうは言っても、私は彼を押しのけることなんてできなかった。ただ、抱きしめられたまま「大丈夫ですよ」と繰り返した。
少しして、ペローナちゃんが私の腕を引っ張って、今度は私はペローナちゃんに後ろから抱きしめられるような形になる。


「こんなところでいちゃつくな、お前ら」
「べ、別に、いちゃついてなんか…!」
「ゴースト娘、お前にも感謝してる。あいつらが今になって襲ってきたということは、昼間はお前がかわしてくれていたのだろう」


そうだったの…?私がペローナちゃんを見上げると、ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。どうやら照れ隠しのようだ。昼間の事と、それから今この恥ずかしい状態から私を離してくれたことに、二重の意味を持って私はお礼を言った。ペローナちゃんは、少しだけ頬を染めて、別に、と答えた。

周りには幾らかの見物人が集まって来た。ほとんどがミホークさん目当てのようで、あちらこちらから、鷹の目が、とか、大剣豪、なんて言葉が聞こえてきた。私達は彼らに気付かれないようになるべくそっとその場を去って、ホテルへと向かった。
着いたホテルは、見るからに高級そうな建物であり、セキュリティのレベルが高いことで有名らしい。私を思ってここにしたんだろう、とペローナちゃんがまた耳打ちをしてきた。
部屋は私とペローナちゃんが同室で、荷物を置くために一旦ミホークさんと別れて部屋へと向かった。


「今日はなんだか疲れたね」
「本当だ。まあ主になぎさが原因だけどな」
「う…、ごめんね。ありがとう、ペローナちゃん」
「あいつに頼まれたから仕方ない」


ペローナちゃんはそう言って荷物を取り出して、風呂場へと向かった。


「ペローナちゃんに怪我が無くて良かった」
「当然だろ。私は強いからな!」
「お風呂入るの?」
「あぁ、先にいいか?」
「うん。どうぞ」


浴室に消えて行ったペローナちゃんを見送って、私はベッドにダイブした。
あの男の人達に狙われていただなんて、買い物している最中は全く気付かなかった。ペローナちゃんには本当に感謝している。強いっていうのは本当なのだろう。ミホークさんも信頼していたようだし。

圧倒的な強さだったミホークさん。これが夢だとは思わなかった。これが、この世界の現実なのだろう。いつどこで戦闘が始まってもおかしくはない世界。それでも、不思議とそのことに対する恐怖なかった。……ミホークが守ってくれると信じることが出来るから。

ミホークさんの私への気遣いが、あまりにも優しくて、嬉しくて、勘違いしてしまいそうになる。ミホークさんが私の事をどう思っているかなんて分からないのに…。そんな風に優しく大事に扱われたら、誰だって勘違いしてしまうだろう。
ミホークさんは、私をどうしたいのだろうか。溜息をついて悶々としていると、ドアをノックする音が聞こえて、私は立ちあがって返事をしながらドアを開けた。


「あ、ミホークさん…」
「不用心だぞ。ちゃんと確認してから開けろ」
「あ…すいません、気を付けます」
「ゴースト娘は?」


扉を開けると、そこにはミホークさんが立っていた。「今お風呂に入ったところです」と答えると、「少し外に出れるか?」と聞かれ私は頷いた。
ホテルのテラスのような場所に出ると、空は既にだいぶ暗くなっていた。見渡すと、周りには男女のペアが多く、ところどころにある灯りが、なんだかあの港町のお祭りの日を思い出させた。


「急遽明日にはここを出なければならなくなった」
「明日ですか?」
「ああ。この間から、慌ただしくてすまない」
「いえ…、大変なんですね」


溜息をついて、テラスの手すりに寄りかかったミホークさんに、私はそっと寄り添った。
明日、一緒に出かけられると思ったのにな…。一体どんな戦争が起こるのだろうか。きっと聞いても私にはよく分からないだろうから、何も言わなかった。
なんだか無性に寂しくなってしまって、躊躇いながらも私は彼の手をそっと握った。自分から手を繋ぐなんて初めてで恥ずかしかったけど、彼もすぐに握り返してくれた。


「おれがここを出る前に、お前達は島を出ろ。帰りの船は手配しておく」
「遊園地、まだ行ってなくて、行きたいねってペローナちゃんと話してたんですけど…」
「…今回は諦めろ。また別の機会に連れて行ってやる」
「そうですか…」


私はしゅんと項垂れた。楽しみだったのに、と思うがミホークさんは私の身の安全の事を想ってそう言ってくれているのは分かっていたので、素直にうなずいた。


「観覧車だけでも、乗ってみたかったなぁ…」


私がそう呟くと、ミホークさんは少し悩んだ素振りをしてから、手を離した。どうしたのかと見上げると、彼は「それじゃあ、今から行くか」と言った。


「今から…ですか?」
「ああ。まだ開いているはずだ。それに、夜の方が見栄えもするだろう」
「でも、ペローナちゃんお風呂入っちゃったし…」
「おれと二人で乗るのは、不服か?」


私の頬にそっと手を添えてミホークさんは聞いた。私は一瞬にして頬を赤く染めて、そんなことないです、と目を逸らしながら答えた。ミホークさんは小さく笑って「では、行こう」と言って私の手を再度握って歩き出した。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -