18


「なんか、気持ち悪いかも…」
「酔ったのか?軟弱だな、なぎさは」
「ペローナちゃんは平気なの?」
「当たり前だろ、こんな船で酔うなんて、お前よっぽど苦手なんだな。とりあえず、横になれ」


ペローナちゃんは呆れ顔で私にそう言った。私はベッドの上に横たわって目を閉じた。
今、私達は港町から客船に乗ってシャボンディ諸島を目指している。ミホークさんの海賊船に乗っても良かったのだが、こっちの方が安全だろうということでちゃんとした客船に乗ることにしたのだ。ペローナちゃん曰く、ミホークさんは私に対して過保護すぎるらしい。そんな風に感じたことはなかったが、しかし私を気遣ってもらっていることは確かだ。
船が出てから数時間経ったが、私は既に船酔いをしていた。それなりに豪華な客船だから揺れはほとんどないのだが、それでも船に乗った経験が少ない私にはそれなりに堪えてしまった。
うーん、と唸りながら寝転がっていると、ペローナちゃんが「仕方ないから、水をとってきてやる」と部屋を出て行った。
どうにも情けない。私は胸に湧き上がる不快感に悩まされる。少ししてコンコンと扉をノックする音が響いた。きっと、ペローナちゃんがお水を取ってきてくれたのだろう。私はのっそりと起き上がり「どうぞ」と声をかけた。
しかし、入って来たのは予想と反して、ミホークさんであった。


「大丈夫か?船酔いしたと聞いたが」
「あ、はい。ちょっと、気持ち悪くなっちゃって…」
「これを飲め。薬ももらってきた」


ミホークさんはベッド脇のサイドテーブルに水の入ったコップと薬を置いてくれた。私はお礼を言って、まず水を飲んだ。喉を伝っていく冷たい液体に、なんだか生き返るような気がした。


「でも、ペローナちゃんは…?」
「さっきそこでゴースト娘に会ったんだ。お前が船酔いしていると聞いたから、代わりに来た」
「そうだったんですね」
「あいつは甲板にでも出ているだろう。おれにコップと薬を押し付けて何処かへ行った」


もしかしたら、ペローナちゃんは私に気を使ったのかもしれない。以前の会話を思い出す。私が、ミホークさんを好き、という…。思い出して、頬が熱くなった。それを誤魔化すために、私はもう一度水を飲んだ。


「薬、飲めるか?」
「え?はい、大丈夫ですけど…」


どうしてそんなことをミホークさんが聞くのかと疑問に思っていると、彼は少し笑いながら言った。


「前みたいに、むせかえったら困ると思ってな」
「前みたいにって……、あ」
「また、飲ませた方が良いか?」


ミホークさんはからかうようにそう言ったけど、私はあの夜の事を思い出してぽんと顔が真っ赤になった。
ここに来て間もないころ、熱を出した私にミホークさんは口移しで薬を飲ましてくれた。その時の事を言っているのだろう。そんな冗談、私にとっては心臓に悪い。私は少し膨れて、ミホークさんに言った。


「からかわないでください」
「…割と本気だったが」
「え?」
「ククッ、冗談だ。とりあえず、早く飲め。楽になる」


彼の言葉に私はまたもやドキッとしてしまう。なんだか、ミホークさんが意地悪だ。私は火照った頬を押さえながらも、水と一緒に渡された薬を飲んだ。
そして、もう一度横たわる。ミホークさんはベッドに腰掛けて、私の頭を優しく撫でてくれた。


「少ししたら、薬が効いてくるだろう。それまで、寝ていろ」
「ミホークさんは…?わざわざ一緒にいてくれなくても、いいですよ?」
「…気にするな。特にすることもない。お前が寝付くまで、ここにいよう」


ミホークさんの手は、心地よかった。ペローナちゃんの言った「過保護」という言葉は、確かに当てはまるかもしれない。彼は、いつも私に優しい。その優しさに深い意味があるのか、否か。
でも今はそんなことどちらでもよかった。ミホークさんが傍にいてくれるというだけで、薬以上の効果がある気がした。私は、彼の手のぬくもりを感じながら、目を閉じた。

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