38


あっという間に、幸せな夜は明けてしまう。
窓のない船室で目が覚めた私は、自分を包み込んでいる温もりの存在に気付き涙が出るほど幸せな気持ちが溢れ出した。

どうしようもなく、好き。

再度自覚した気持ちがトクントクンと穏やかな鼓動に乗って体中を巡っていく。厚い胸板に刻まれたタトゥーをそっとなぞると、頭上から優しい声が聞こえた。

「おはよう」

少し掠れたいつもよりも低い声が心地よく鼓膜を揺らす。「おはようございます」と私も返すと、彼の指先が私の髪の毛をするりと撫でた。

「ちゃんと眠れたか?」
「はい」
「そうか、なら良かった」

時折耳へと触れる指先が気持ち良い。目を閉じると、マルコは喉を鳴らすように笑った。

「二度寝か?」
「だめですか?」
「いいや。だめなんかじゃねェよい」

おれも寝る、と呟き私の体を強く抱き寄せる。
密着する肌。少しだけ早くなった鼓動。彼の温もりが、愛おしくて切なくなる。
二度寝をする、なんて言ったものの一度起きてしまった脳はそう簡単に寝付けなかった。再び目を開けると、目を閉じたマルコの顔がすぐ近くに合って頬が一気に熱くなった。それども離れたくなくて、今度は彼の頬に指を添わしてみた。
唇と、それから瞳。ゆっくりとなぞる肌。きっとマルコは起きているはずだけれど、何も言わずされるがまま私の指を受け入れていた。彼がここにいるという事実を、全て残さず私の記憶に焼き付けておきたかった。

「くすぐってェなァ」
「やっぱり、起きてた」
「なんだ、人が起きてるって分かってて触ってたのかよい」

呆れたように笑うその顔も好き。好きという気持ちが止まらなくて、怖いくらいだ。

ひとしきり二人でくすくすと笑った後、どちらともなくゆっくりと起き上がった。この時間が永遠に続くわけじゃないことは分かっていた。朝になれば、終わり。マルコはシワのついたシャツを着直して立ち上がる。

「夕方には、近くの島に上陸できるはずだ」
「そうなんですね」
「街に行くときは、必ず誰かと一緒に行けよい。一人で行動すんのは危ないから駄目だ」
「……マルコさん」

扉の前に立つ彼に、後ろからぎゅっと抱き着いた。拒否はされなかったけれど、こちらを振り向いて抱きしめ返すなんてことはしてくれなかった。

「マルコさんに、一緒にいてほしいです」
「……おれは」

抱き着いた腕にそっと手が重ねられた。無言の空気が流れ、私はもう一度マルコの名前を呼ぼうとした。
そのとき、鍵を開けていた扉がガチャリと音を立てて開いた。
ハッと驚いて顔を上げると同時に、外の光が部屋の中へと入ってくる。扉の前に立っていたのは、エースだった。



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