37


彼の腕に包まれながら眠るのはいつぶりだろうか。泣いてしまった私をあやすように優しく背中を撫でる手が心地よくて、自然と瞼は閉じていった。

「眠いか?」
「ん、少しだけ」
「そうか。寝るまで、そばにいてやるから」

鼓膜に響く和やかな声。二人で寝るにはやや狭いベッドの上で、私たちは身を寄せ合っていた。
一緒に寝てほしいと言った私のわがままをマルコは聞き入れてくれた。嬉しくて、だけどそれが単なる優しさであることもちゃんと分かっているから切なくて、涙は相変わらずシトシトと降り止まない雨のように頬を伝ってシーツへとこぼれていく。

「寝るまで、ですか?」

ゆっくりと目を開けると思ったよりも近くに整った顔があって、心臓が大きく跳ねる。私と視線を合わせるために大きな体を丸めていることがたまらなく愛おしくて胸がぎゅっと締め付けられた。

「朝まで一緒にいてほしいのに」

一度タガの外れた私は恥ずかしげもなくそうワガママを呟いた。今なら何を言ってもマルコが聞き入れてくれるような気がしたことも理由だった。
寝るまで、だなんて。朝目が覚めたらまた一人きりの冷たいシーツの上でマルコがいない孤独を感じなければいけないのだろうか。
起きて一番にマルコの顔を見ることが出来たら、おはようと言うことが出来たなら、それは私にとって今考えられる最大限の幸福のように思えた。

「今日は随分と甘えただな」
「ダメですか?」
「いや」

マルコはそう言って私の髪の毛を優しく梳いた。綻んだ頬、細められた瞳は確かに私を見つめていた。

「可愛いなって思っただけだよい」

もしかしたら私と同じ気持ちを、マルコも私に対して抱いているのかもしれない。そう思いたくなるくらい彼の表情は柔らかくて慈愛に満ちていた。
そんなわけないと分かっているけれど、今だけはそんな風に思いたかった。
ドキドキと早鐘を打つ自分の鼓動がなんだか恥ずかしくて、私は顔を隠すように彼の胸元に縋りついた。

「…朝まで一緒にいて良いか?」

どこか寂しそうな声でマルコが問いかける。私は強く頷いて、彼のシャツをさらに強く握りしめた。

「一緒にいてほしいんです」

本当は朝までじゃない。ずっと一緒にいてほしい。
好きだと、気持ちを伝えたいのに。

チクリと痛む胸の奥。刺さった棘の理由もちゃんと分かっていた。今こうしてマルコと二人で体を寄せ合って眠ろうとしていること自体、本来なら許されないことなのだ。

「マルコさん、私、マルコさんのことが……」

それでも溢れる気持ちを思いのまま口に出そうとしたとき、マルコの指先が私の唇をそっとなぞった。
どうしたのかと顔を上げると、マルコは静かに首を横に振った。憂うような瞳には私だけが映っている。

「今は、何も言わなくていい」

それがどういう意味なのか、正確な意図は多分わからなかった。分からなかったけれど、私は黙って頷いて口を閉じた。
静かで、切なくて、だけど温かい夜だった。もう一生このままで良い、このままが良い。そう思いながら、ゆっくりと眠りに就いた。



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