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あの日から、ミホークさんは私と目を合わせてくれなくなった。食堂で顔を合わせても挨拶もそこそこにミホークさんは席を立ってしまう。
私自身、二人きりになるのを極力避けてしまっていた。顔を見ると、あの日のキスが記憶によみがえってくる。そして胸の奥が熱くなり下半身が疼き、羞恥心で耐えれなくなるのだ。

私達の様子がおかしいことにペローナちゃんはすぐに気が付き声をかけてくれたけれど私は上手く説明することが出来ず曖昧に笑って「なんでもないの」というバレバレな嘘をつくことしかできなかった。


「…なぎさが話したくないなら無理に聞けないけど、そんな顔して大丈夫なんて嘘吐かれても余計に心配するだろうが」
「ごめんね、ペローナちゃん…」


夕食の後、一緒にお風呂を入ろうと誘ってくれた彼女に髪の毛を乾かしてもらいながらそんな会話を交わす。
シュンと俯いた私に彼女は慌てて「責めたつもりはないからな!」と言いながらホットワインを作って来てくれた。


「これは?」
「甘く煮詰めたワインだ。これならなぎさでも飲めるだろ?」
「ほんとだ。甘くて飲みやすい…」


マグカップに口を付けるとアルコールの香りがふわりと鼻を抜けた。
気を遣わせてしまったことが申し訳なくてもう一度謝ると、ペローナちゃんは首を振った。


「いちいち謝るな。謝ってほしくてやってるわけじゃないんだから」
「でも…」
「なぎさが元気になってくれればそれで良い」


まん丸の瞳でじっと見つめられると女の子同士といえでも少し照れくさい。恥ずかしさを隠すように笑うと、ペローナちゃんも釣られたように笑ってくれた。
二人でクスクスと笑い始めるとさっきまで悩んでいたミホークさんのことを少しだけ忘れられた。


「ワイン、まだあるからな。アイツの酒造から取ってきたやつだから、味は保証する」
「また勝手に取ってきたの?この間みたいに怒られちゃうよ」
「なぎさが飲んだって言えば大丈夫だろ」


ケラケラと笑うペローナちゃんを見ていると彼女の優しさに胸が温まっていくような気がした。

普段お酒を飲む機会があまりない分、甘くて飲みやすいホットワインをついつい飲み過ぎてしまい、気が付いた時には眠ってしまっていたようだった。
時計の音と話し声がうっすらと聞こえる。目を擦りながら起き上がろうとした時、体がふわりと宙に浮いた。


「なぎさはおれが責任持って連れ帰るぞ」


低い声が聞こえる。体を抱きしめる誰かの体温には見覚えがあった。
ペローナちゃんの部屋で髪を乾かして、慰めてもらって、ホットワインを飲んで…。ペローナちゃんが「おやすみ」と私に呼びかける声も聞こえた。寝ぼけ眼のまま「おやすみなさい」と答えると同時に、私の体は部屋の外へと出ており扉がバタンと閉められた。




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