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エースとの関係は、思ったほど船内では広まらなかったようだ。

私とエースが一緒に行動するのは今に始まったことじゃないし、エースも気を遣って皆がいる前では必要以上に私に触れたり、私との関係を敢えて他の人に言うこともしなかったせいだろう。
それでも一部の勘の良いクルー達は、何も言わずとも私達の変化に気付いているようだった。私が最近マルコの部屋ではなく、比較的人の出入りの少ない方の医務室を自室として使っている様子を見て、何かあったことを悟ったようだった。

「で、マルコともずっと話してねぇのか?」
「別に、そう言うわけじゃないです。そもそもマルコさん、船を空けることも多いから…」
「お前に気遣って、なるべく船にいないようにしてやってんだろ」

今日は昼間から海軍との小競り合いがあり、大きな戦闘になる前に収束したがクルーの何人かは軽い負傷をしていた。
イゾウもその一人で、私が最近寝泊まりしている医務室で彼の手当を担当しているとそう話を振ってきたのだ。

「エースのやつ、本気でヒナに惚れてんだろ?とやかく言うつもりはねぇが、自分の気持ちくらいちゃんと整理できないと、周りを傷つけるし最終的に辛いのはヒナ自身だぞ」
「……わかってるつもり、です。エースはすごく良い人だし、私もその気持ちにこたえたいって、そう思ってる…けど……」

痛いところを突かれて、私は目を逸らしながらそう呟いた。私がエースの気持ちに甘えて縋ってしまっていることも、詳しいことは何も聞いていないはずだがきっとイゾウにはお見通しなのかもしれない・
手が止まってしまった私を見て、彼はため息を吐き頭をポンポンと優しく撫でてくれた。

「責めようと思って言ったわけじゃないさ。可愛い妹が悩み事を抱えてたら、兄貴は心配するんだよ」
「私が、妹?」
「あぁ。この船の奴らはみんな、お前のことも大切な家族だと思ってるよ」
「家族……」

マルコもまた、私のことをそう思っているのだろうか。女の子ではなく、ただの妹。もしくは、娘……。
イゾウの慰めすら、マルコのことを考えるきっかけへと変えてしまう自分の思考回路が憎らしかった。私が黙ってしまったのをイゾウは何か別の意味に捉えたのだろう。彼は私を軽く抱き寄せるように背中を撫でてくれた。

「お前はもう少し、自分の気持ちを大事にした方がいいんじゃねぇか」
「どういうことですか」
「どういうことかは、自分で考えてみろ。おれはお前が誰を選んだとしても、それが本心ならお前の味方だよ」

私は、私の気持ちを大事にしていいのだろうか。そもそも、私の本心って、一体……。
イゾウに言われた言葉を考えていると、部屋の扉が開く音が聞こえた。しばらく使われていなかった部屋ということもあり、扉が少しさびており開けるとキィと耳障りな音が聞こえるのだ。彼から体を離し、視線を入口へと向けると、そこにはちょうど今考えようとしていた人が立っていた。

「なんだ、取り込み中か?」
「あ、っ」

苛立った声に、体が無意識のうちに強張ってしまう。イゾウは部屋にやってきたのがマルコだと気付いた瞬間パッと私の体を離して立ち上がった。

「いや、怪我の手当をしてもらってただけだ。ありがとな、ヒナ」
「あ、いえ、別に」
「じゃあな、また何かあったらいつでも相談乗るから。マルコも、またな」

部屋を出て行ってしまったイゾウのせいで、私はマルコと二人きりになってしまう。
明らかに不機嫌な様子のマルコに私はどうしたらいいか分からずその場に立ち尽くしていた。だけど、久しぶりに会えたからか、嬉しい気持ちが胸に溢れてしまいそれが逆に今のこの部屋の空気間との温度差をうんでおり、私はどういう表情をしたらいいか分からず、マルコから目を逸らして俯くことしかできなかった。




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