33


朝になって目覚めた私はここが医務室のベッドだということを思い出し、そして昨日のエースとのやり取りが頭の中で再生された。そうだ、私……。
まだ重い体をどうにか起こして着替えを取りに行くためにも医務室から出ようとしたとき、ちょうど部屋のドアが開いてエースが入ってきた。

「あ、起きてたのか」
「エース…」
「具合は平気か?ほら、着替え。必要かと思って持ってきたけど、これで良かったか?」

私の顔を覗き込んで、着替えを手渡してくれたエースにお礼を言う。昨日のことなど忘れたかのようにいつも通りに振舞う彼に、少しだけ心が軽くなった。
彼から受け取った着替えを手に、部屋に備え付けのシャワールームで熱いお湯を被りながら私は昨日起きたことを想い返すかのように考える。エースとの関係、そして、マルコのこと……。濡れた鏡に映る自分を見ると、目の腫れはなんとか引いていたが顔色の悪さは相変わらずだった。
シャワーを浴びてスッキリした私が部屋を出ると、エースが外で待ってくれていた。

「飯、食うだろ?」
「うん」
「じゃあ一緒に行こうぜ」

エースはそう言って私の前を歩き出す。敢えて彼は昨日のことについて何も触れないのだろうか。
付き合おうと、彼は言った。それはつまり恋人同士になるということで、私は彼の問いかけに小さくだがしっかりと頷いたのだ。今の私とエースの関係は、ただのクルーじゃない。
なんだか気まずさを覚えた私の歩くスピードは自然と遅くなり、エースとの距離が少し空いたところで後ろから別のクルーが話しかけてきた。

「お、ヒナか。具合はどうだ?」
「またエースと一緒なのか」

気さくに話しかけてくれた彼らに返事をしようとしたとき、エースがぐいっと私の手掴み引っ張った。何かと思って彼を見上げると、エースはクルーに向かって拗ねたように「おい」と話しかける。

「ヒナにちょっかい出すなって!」
「なんだエース、焼きもちか?」
「男の嫉妬は見苦しいぞ」
「うるせぇ!」

彼らはエースを一通りいじったあと、私に向かって「大変だなァ、ヒナ。頑張れよ」と冗談半分に声をかけて先に食堂へと向かって行った。
からかわれたエースは不機嫌そうな顔で「あいつら、いっつもヒナに余計なこと言いやがって…」とぶつぶつと文句を言っていた。

「エース?」
「あ、飯、食いに行くよな。悪ぃ、あいつらいつもお前にちょっかい出すから、なんかムカついちまって……」

歯切れ悪くそう弁解するエースに、私は「気にしないよ」と笑顔で答えた。私の返答に少しだけほっとした表情を見せた彼に、また小さな罪悪感が募る。気にしないのは、つまり、私がエースに対して仲間として以上の興味が無いという証拠。キリキリと痛む心臓を見ない振りをして、私はエースが差し伸べてくれた手を握り返した。



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