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「おい、お前らどうしたんだ。ヒナはなんで泣いてんだ、エースに泣かされたか?」
「サッチ、頼む。二人きりにしてくれねェか」
「…お、おう……」

泣く私の手を引いて船内を歩くエース。私たちの異様な雰囲気に、船内ではあっという間におかしな噂がまわっているようだった。話しかけてきたサッチをエースは怖い声でそう避けて、私たちは人のいない小部屋に入る。そして奥の椅子に私を腰かけさせて、いまだに涙がこぼれる瞳を指で優しく拭ってくれた。

「悪ィ、みんなに注目されちまったな。言い訳、ちゃんとあとでおれがしておくから」
「…迷惑かけて、ごめん」
「迷惑なんかかけてねェよ」

エースはしゃがみこんで私を心配そうに見上げていた。先程の部屋での出来事を思い返す。私を好きと言ってくれた彼の言葉は、決して冗談なんかではないことはよく分かっていた。気まずい気持ちだったが視線を逸らすことが出来ず、困ったように彼を見つめる私の手をエースはぎゅっと包むように握りしめた。

「さっきは勢いで言ったけど、でも、お前のこと好きな気持ちは本当だから」
「…うん」
「好きだ、ヒナ」
「………うん」

頷くことしか出来なかった。なんて返事をするのが正解なのか、分からなかった。返事の仕方だけじゃなくて、自分の気持ちも私はよく分かっていない。頭の中をぐるぐるまわっているのは、皮肉にもエースではなくマルコの言葉だった。
私を幸せな気持ちにしてくれるのも、絶望のどん底に落とすのも、マルコただ一人だけ。彼だけが、いつだって私の心を揺れ動かす。昨晩の光景と、「関係ない」と言った彼の言葉が瞼の裏と耳にこびりついて離れなかった。

「ヒナ」

エースに名前を言われて私はハッと顔を上げる。不安げに私を見上げるエースに、罪悪感を抱く。彼はこんなにも私を想ってくれているのに、泣く私を気遣って優しく手を握ってくれているのに。

「なぁ、付き合おうぜ」
「え…?」
「お前がおれのこと、男として見てないのは知ってる。だけど、お前が一人で泣かなくて済むように、一番近くにいて支えてやれる存在になりてェんだ」

手を握る力が強くなる。エースの頬は心なしか赤く染まっていた。きっと、緊張しているんだ。エースの気持ちが温かくて、苦しくて、私は目を逸らしてしまった。ごめんなさいと言うべきなのは分かっている。だけど、今の私は本当に弱っていて、彼の優しさに甘えて縋りたい気持ちが影のように心にちらついて、すぐに返事をすることが出来なかった。

「………私、その…」
「今は好きじゃなくていい。今はおれのこと、ただの仲間としか思えなくてもいいから。だから…」

懇願するエースの言葉に、私はまた泣きそうになった。断ることなんて、出来るはずがない。俯いたまま、小さく頷いた。私は、なんてずるいんだろう。エースはその小さな返事を見逃すことなく、肩を震わす私のことを優しく抱きしめてくれた。







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