40


ここ数日、ミホークさんの顔を見ることが出来ない。理由は単純。彼を見かける度に、キスのその先の行為を想像してしまうからだった。

私の拙い知識では具体的な様子を思い浮かべることは出来なかったが、だけどミホークさんのあの大きな手が体を撫でたり、肌を重ねたり、ぐるぐると頭の中をピンク色の妄想がかけめぐる。
姿を見るだけでそんなことを想像してしまうなんて、私はいつからこんな破廉恥な人間になってしまったのだろう。こんなことばかり考えていることを、もしも本人に知られてしまったら……。今だって、妄想が膨らむたびに羞恥と罪悪感で心が苦しくていっぱいいっぱいになっているというのに。
ミホークさんと顔を合わすたびに慌てて視線を逸らしそそくさと部屋を出ていく私の挙動不審に周りが気付かないはずもなく、ペローナちゃんからは早速どうしたのかと尋問される。しかし相談するのすら恥ずかしさゆえに出来ず、私は困ったように口をつぐむことしか出来なかった。


「アイツと喧嘩でもしたのか?」
「違うよ!そういうのじゃないの、ただ私が…」
「なぎさが?何かしたのか?」
「なっ、何もしてないよ!なんでもないの、本当に、あの……」
「無理に言わなくてもいいけどよ。あんまり長引かせるなよ、城の雰囲気が悪くなる」
「ご、ごめん…」
「…なぎさを責めてるわけじゃないからな!」


私が謝ると、ペローナちゃんは少し焦ったようにそう言って私のほっぺを優しく抓ってから「早く仲直りしろよ」と声をかけて私の部屋から出て行った。バタンと閉められた扉を見て、ハァとため息を吐く。
ペローナちゃんからも見てわかるくらい、最近の私はおかしかったのかと改めて実感する。しかし良い手立ても思いつかずベッドの上でごろんと横になった。まだお昼にもなっていないけれど、何もする気が起きない。ミホークさんは、今頃何しているだろうか……。
横たわって少しウトウトしかけてきた頃、部屋の扉がそっと開く音が聞こえた。ペローナちゃんが戻ってきたのだろうか。ゆっくり起き上がろうとしたとき、部屋に入ってきた誰かはずかずかとこちらまで早歩きで来たために寝そべったままその人物がベッド脇に立つのが見えた。そこにいたのはペローナちゃんではなく、今一番会いたくないミホークさんだった。


「……えっ、ミホークさん」
「具合でも悪いのか?」


どことなく不機嫌な声色だった。ミホークさんは寝そべっていた私を見下ろしてそう尋ねる。私は慌てて首を振って起き上がった。
手櫛で髪の毛を整えて、少し乱れていたスカートの裾を直す。彼は私の隣に腰かけてこちらをじっと覗き込んだ。ミホークさんの瞳は見つめ続けていると吸い込まれてしまうような不思議な色をしている。頭の中にじわじわと溢れだすピンク色の妄想に、私は急いで目を逸らした。


「大丈夫です、ちょっと昼寝をしていただけで…」
「……なぎさ」
「はい」
「何か気に食わないことでもあるのか」


私の手に自分の手をそっと重ねて、ミホークさんはそう聞いてきた。気に食わないことなんてあるはずがない。彼がそんなことを聞くのは、私が彼に対しておかしな態度を取っているからだ。だけど、その理由をどうやって本人に話すことが出来るだろうか。ミホークさんを見ると変なことを考えてしまうんです。それが恥ずかしくて避けてしまうんです。……そんなこと、言えるはずがない。


「何も、ないですよ」
「何もないことはないだろう。現にお前の態度はここ数日おかしすぎる。気になることがあるならちゃんと言え。言葉にしてくれないと、おれは分からない」
「……だ、だって…」


珍しくミホークさんは苛ついているようだった。握られた掌にぎゅっと力が入る。なんて言い訳をしよう。必死に頭を動かしていると、また誰かが部屋の扉を叩いた。


「おい、なぎさ、いるか?」


声の主はゾロ君だった。この状況から逃げるための救世主のように思えて、私は急いで返事をしようとした。しかし、口を開く前にミホークさんの手によって口元を押さえられてそのままベッドの上へと引き倒されてしまった。
押し倒された状態で、真上から私を見下ろすミホークさんのせいで心臓がうるさいほど音を立てる。扉の外からはノック音とゾロ君が私を呼ぶ声が聞こえた。


「んっ、んん…」
「静かにしろ」


耳元でそう囁かれて身動きを封じられてしまう。しばらくして私がこの部屋にいないと思ったのか、ゾロ君は何処かへと行ってしまったようだった。しかし彼がいなくなった後も、ミホークさんは私を起き上がらせてくれそうにはない。ドクンドクンと心臓が大きな音を立て続ける。こんな状況だと、また私の妄想に拍車がかかってしまう。ミホークさんの端正なお顔が私のことをじっと見つめている……。
羞恥に堪えきれずぎゅっと目を瞑ると同時に、ミホークさんは私に優しいキスを落とした。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -