29


「おい、起きろって」
「ん……」
「もう朝だぞ」
「……まだ、眠い」
「ヒナ」


誰かが体を揺らして私を起こそうとする。なんだか頭が重くて目を開ける気力が沸かない。私は布団を頭まで引っ張り上げて駄々をこねるように再び寝ようとしたとき、頭上から大きなため息が降ってきた。そして私の名前を呼ぶ声にハッとする。あれ、私を起こそうとしているのは、エース…?慌てて起き上がると、少し赤らんだ顔のエースが私を見下ろしていた。


「え、あれ、エース…?どうしてここに」
「どうしてって、ここおれの部屋だぞ」
「エースの部屋?」
「お前、昨日のこと忘れたのか?」
「昨日って……あ」


そうだ昨晩…。自分がなぜ今エースの部屋にいるかを思い出すと同時に、マルコが誰かとキスをしていた情景も脳裏に浮かんだ。ズキズキと鈍い痛みが頭の中で響く。私が頭を抱えると、エースは心配そうに背中をさすってくれた。


「具合悪いのか?」
「…うん」
「じゃあもう少し寝てろ。無理に起こして悪かった」
「ううん。自分の部屋に戻るよ、迷惑かけてごめん。泊めてくれてありがとう」
「いいって、ここにいろよ!」


エースは少し声を張り上げてそう言った。声の大きさに驚いて顔をあげると、彼は気まずそうに目を逸らした。背中にまわった腕に力が入り私を抱き寄せる。エースの鼓動が伝わってきて、少しドキドキしてしまう。


「エース?」
「……アイツんとこ、戻ろうとするなよ」
「え?」


小声で呟いたエースの言葉を聞き返そうとしたとき、扉が開き「おい、エース!いつまで寝てんだ!」とサッチの怒声が部屋に響いた。私もエースも突然のことにびっくりして入ってきたサッチを見つめ、サッチもまた驚いたように私達を凝視していた。


「あれ、ヒナなんでここに…。ていうか、抱き合ってる……?」
「ちょっ、おい、誤解すんな!」


エースは慌てて私から離れてサッチに飛び掛かるようにして状況を説明しようとしていた。サッチはニヤニヤするだけで私達を見比べて「なるほどなぁ、そういうことか!」と早合点しているようだ。「ヒナはまだ寝てろよ!」と言い残し、エースはサッチを連れて部屋から出て行ってしまった。残された私は、今の出来事ですっかり目が覚めてしまい寝る気にはなれず、重い体を起こして自分の部屋へと戻ることにした。


自分の部屋に戻ると、そこにマルコの姿は無かった。ほっとすると同時に、不安な気持ちも湧き上がる。マルコはあのナースと夜を過ごしたのだろうか。この部屋で、彼のベッドで抱き合って眠ったのだろうか。綺麗に整えられた彼のベッドは、昨晩誰も使っていないようにも見えたし,使われた後にきちんと整頓し直されたようにも見えた。
私はなんとなくマルコのベッドに腰かけて、そのまま倒れこむようにして彼の枕に顔を埋めた。…安心する匂い。腕枕をしてもらい眠った夜を思い出した。頭が痛い。息苦しさに顔をしかめながら、私は再び重い眠りへと落ちて行った。




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