27


エースに送ってもらい部屋へ戻った時、既にマルコは眠っているようだった。ゆっくりと上下するシーツを見つめながら静かに「おやすみなさい」と声をかけたけど、彼から言葉が返ってくることは無かった。
そして翌朝。目覚めた時、部屋には私一人きりだった。マルコはきっと朝早くに出て行かなきゃいけない用事があったのだろう。大きなため息を吐いて起き上がる。やっぱり、なんだか気まずい空気のままだ。どうして上手く関係を築くことが出来ないのだろう。自分が社交的な性格だとは思わないが、一番仲良くなりたい人とここまで拗れてしまうなんて、自分の情けなさにまた涙が出そうだった。


それから数日が経った。マルコとは相変わらずすれ違いの生活が続いていた。日に日に落ち込んでいく私を見て、エースは何かと声をかけてくれていたが、心が完全に晴れることはなかった。
エースと一緒にいることを、他のクルーからからかわれることも増えてきた。そのたびにエースは大袈裟に否定して、頬を少し赤く染めながら「あいつら、しつこいな」と怒っていたが、私はそれすらも他人事のように思えて曖昧に笑い返すだけだった。

マルコの後ろをついてまわっていたときは、今こうしてエースと一緒にいる時間よりも長く一緒にいたのに、彼と恋仲だと囃されることは一度も無かった。私みたいな子供じゃ、誰が見てもマルコとは不釣り合いなのだろう。そう改めて自覚させられて、ネガティブに拍車がかかっていく。

ある月のない夜、やはり部屋には私一人きりだった。マルコの姿は朝から見ていない。なんとなく不安で眠れず、一人でそっと外に出てみた。いつだったか、サッチに「新月の夜はあまり部屋から出ない方が良い」と言われたことを思い出す。あれはいったいどういう意味だったのだろう…。船内は真夜中ということもあり、いつも以上に暗く人気も無かった。
ふと、廊下の先、星明りもと届かずより一層闇が濃い部分から人の声が聞こえる気がした。誰かいるのだろうか。近づくと、男女二人の声だと分かる。そして、その声色は、聞き覚えのあるものだった。


「本当に良いの?」
「……うるせェよい」


闇に慣れた目が捉えたのは、マルコとナースの姿だった。ぼんやりとした輪郭だが、私がその姿を見間違えるはずがなかった。思わず立ち止まるが、二人は私の存在に気付かないようで、二つの影が重なっていく様子が見えた。女の甘い声が響く。……キスを、しているんだ。鈍い私でもわかる。
頭を鈍器で殴られたかのような衝撃だった。思考回路が止まり、その場に崩れ落ちそうな私の肩を後ろから近付いてきた誰かが支えてくれた。


「おい、大丈夫か?」
「っ……エース」
「しっ、気付かれるぞ。こっち来い」


いつの間にか背後にいたエースが驚いた私の口元を押さえ、そして手を引いてマルコ達とは反対方向に早足で歩きだした。そのままエースの部屋まで連れて行かれて、彼はやや放心状態の私を無理やりベッドに座らせた。


「あんなところで一人で何してたんだよ」
「何って、わけでも…」
「最近ずっとおかしいだろ。…話くらいなら、聞けるけど」


エースはそう言って私に飲み物を渡して、隣に腰かけて顔を覗き込んできた。
脳裏によぎるマルコのキスシーン。エースの優しさが心にしみて、気が付いたら私は涙を流していた。


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