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予想通りミホークさんは二つ返事で買い物へ行きたいという私のお願いを聞き入れてくれた。数日後、私達は船に乗って近くの港町まで送ってもらい、ペローナちゃんと二人で思う存分買い物をした。
最初は私の下着を買うという名目だったが、気が付いたらペローナちゃんは自分の私服を大量に買い込んでいた。彼女ほどでは無いけれど、私も一緒に見て選んでもらったものを買うことにした。もちろんお金はミホークさんからもらったお小遣いから支払っているので、こんなにも自分の為だけに使っていることに少しだけ罪悪感を抱いたりもしたが、楽しい気持ちの方が上回り上機嫌で帰宅し、私達の持つ大量の買い物袋を見てゾロくんに呆れた顔をされてしまった。


「随分たくさん買ったのだな」
「…ミホークさん!」


自室のクローゼットに買った服を仕舞っていると、いつの間にか部屋に来ていたミホークさんに声をかけられて驚いた私は尻もちをついてしまった。そんな私を見て、ミホークさんは小さく笑いながら近寄り腕と腰を支えて立たせてくれる。


「驚かせてすまない。ノックしたのだが、気付かなかったか?」
「気付かなかったです…ごめんなさい」
「いや、勝手に部屋に入ったおれが一方的に悪い」


謝るミホークさんに「いやいや、私の方が…」と返そうとしたとき、まだ仕舞いきれていなかった紙袋の一つが倒れて、中から今日買ったばかりの可愛い下着が床へと飛び出してしまった。私は慌ててそれに飛びついて袋へとしまいなおし、チラリとミホークさんを見上げた。


「あ、あの、見えました?」
「……あぁ」


顔が赤くなる。男の人に自分の下着を見られるだなんて、それだけでも十分恥ずかしいというのに。ちょうど見られてしまったのは、ペローナちゃんに選んでもらったもので可愛いレースで縁取られており、私が今まで持っていたどの下着よりも布の面積が小さかった。こんな派手な(ペローナちゃんにいわせるとまぁまぁ地味らしいが)ものを着るのかと、ミホークさんに変に思われてしまったらどうしよう。
ミホークさんは腕を組み顎に指をかけて悩むような素振りをしていた。私は抱きしめた紙袋をそそくさとクローゼットへと仕舞い、他のものも同じように片付けようとしていると、ミホークさんは私の名前を呼んだ。


「は、はい」
「……ああいうのを買うために、出掛けたいと言ったのか」
「…はい。あ、いや、他にも買いましたけど」
「そうか」


また悩むようなポーズに戻ったミホークさん。普段から、ああいうフリフリしたものを着ているのかと思われてしまっただろうか。頬が熱い。私はミホークさんの腕を掴んで、あの、と話しかける。


「私いつもあんな派手なのを身に着けてるわけじゃなくて、あの、ペローナちゃんが少しはこういうのも持っていた方が良いって、そう言われて」
「つまりはあれはゴースト娘の趣味なのか」
「いや、ペローナちゃんはもっとゴシックっぽいのが好きで、これはミホークさんが好きそうだなって二人で相談したやつで…」
「…ふむ」
「あっ!あ、いや、違うんです、あの」
「おれの好みを予想したと…なるほど」
「ミ、ミホークさんっ…!」


ミホークさんは口元を手で隠してはいるが、震える肩が口を滑らしてしまった私を面白おかしく見ていることは明らかだった。こらえきれずクツクツと笑い出したミホークさんに私は真っ赤な顔で頬を膨らませた。


「笑い過ぎです…っ」
「予想なんかしなくても、おれに直接聞けばよかろう。幾らでも答えてやるぞ」
「聞けるわけないじゃないですか!」
「何故だ」
「何故、って…恥ずかしいから、です」
「おれに見せるために買ったのだろう。何を恥ずかしがる必要がある」
「なっ、み、見せないですよ!」
「見せてくれないのか?」
「えっ……」


ミホークさんは何を言いだすのだろうか。見せるなんて、そんなこと……。だけどその時、ペローナちゃんとの会話を思い出す。あの時ペローナちゃんが言っていた「まだアイツと寝てないのか?」とは、ひょっとしてそういう意味だったのではないのだろうか。だから私に下着を買いに行こうと誘ってくれたのでは……。
そのことに気付き、そして「見せてくれないのか」と言ったミホークさんの言葉の意味は、それはつまり……。
これ以上考えると頭がどうにかなってしまいそうだった。私はその場に崩れるように蹲って頬を両手でぎゅっと抑えた。


「おい、大丈夫か」
「私、その……」


突然しゃがみこんだ私を心配するように同じ高さに屈んだミホークさん。急に近くなった声と顔に、更に心臓が痛くなる。
想いを伝えた。キスだって、それこそ数えきれないほどした。恋人同士になった二人のその先、私達がまだ経験していないこと。それは、つまり。
ミホークさんは優しく私の手を握った。顔をあげることが出来ず、私は震える手でその手を小さく握り返す。


「すまない、からかい過ぎた」
「っ…私、あの」
「なぎさ」


耳元でゆっくりと名前を呼ばれて、だけどミホークさんの顔を見ることが出来ず、私は彼の手をさらに強く握りしめた。

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