25


今朝のマルコの言葉が考回路をぐるぐると支配する。私はその日一日、彼の顔を見て話すことが出来なかった。顔を見てしまったら、絶対に敵わないこの想いがあまりにも惨めで悲しくて張り裂けてしまいそうだった。
しかしそんな日に限り、昨晩取り乱した私を心配してか、マルコは何かと私を気遣い声をかけてきた。昨日は縋りついたくせに、今日は避けるだなんて、我ながらなんて自己中心的なのだろうと更に自分が嫌になる。さすがにあからさまに避けるなんてことはしなかったが、それでもきっと敏いマルコは私が一度も目を合わさないことに気付いているだろう。

その晩、部屋で一人ゆっくりしていると、マルコが扉を開けて入ってきた。顔を合わせたくないとはいえ、同室だとそうも言っていられない。部屋を分けることを嫌がったくせに、今日は同室ということが逆に私を苦しめていた。


「ヒナ」
「……はい」


マルコは私を呼んで、そして私が腰かけていた椅子とテーブルを挟んだ反対側の椅子に座った。気まずくて目を逸らす。大きなため息を吐いて、マルコはもう一度私の名前を呼んだ。


「何が、気に食わないんだ?」
「どういう意味ですか?」
「朝から様子が変だろうが」


私が一度も目を合わさないことを言っているのだとすぐに分かった。なんて答えたらいいのか分からず、私は困ったように俯いた。マルコは淡々と言葉を続ける。


「今朝のことか?」
「えっ…」


思わず顔を上げてしまった。今朝のマルコの発言が私を苦しめていると、そこまで彼は気付いていたのだろうか。私の反応は図星ですと言っているようなものだった。気まずい沈黙が流れる。なんて答えようか悩んでいる時、ちょうど扉を叩く音が聞こえた。


「ヒナ、いるかぁ?」


エースの声だった。これは良い助け船だと、扉を開けに行こうと席を立った。しかし、マルコの横を通った瞬間、腕を掴まれて止められてしまう。振り向いて彼の顔を見ると、今まで見たことがないような表情をしていて、私の心臓はドキンと大きく揺れた。


「マルコ、さん?」
「………ヒナ、おれは」
「おーい、いねェのか?」


エースが再び私を呼ぶ。私が視線をマルコからドアの方に移すと、掴んでいた腕も離された。どうしたのかともう一度マルコの方を見たが、彼はもう私を見ていなかった。
どんどん、と扉を叩く音が大きくなる。私は扉を開けて「エース、聞こえてるよ」と声をかけた。


「どうしたの?」
「ちょっと外出れるか?見せたいものがあるんだ」
「見せたいもの?」
「あぁ、ほら、早く行こうぜ」


エースはそう言って私の腕を掴んで歩き出そうとする。私は慌てて振り返ってマルコを見た。彼は相変わらずこちらを見ていなかった。


「マルコさん、私、エースと行ってきていいですか?」
「おれの許可なんざいらねェだろ。勝手にしろ」


マルコの声は冷たかった。心臓が変な音をたてている。私はエースに引っ張られるように部屋を出て行った。


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