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「おい!なんでお前ら一緒に寝てるんだよ!」
「……朝からうるせェな」


騒がしさに眠りから目が覚める。まだ少しぼやける視界に瞬きを繰り返しながらゆっくりと起き上がると、何故か部屋の中にはサッチとエースがいてこちらを凝視していた。特にエースはギャンギャンという表現がふさわしいほどマルコになにやら詰め寄っていた。


「あの、マルコさん、これは一体…」
「起きたか。あぁ、お前は気にすんな。馬鹿が騒いでるだけだよい」
「てめっマルコ!言わせておけば!」
「まぁまぁ、お前が馬鹿なのは事実だし、別にこいつらが一緒に寝てたって何の問題もねェだろ、落ち着けって」
「問題大ありだ!」


サッチがどうどうとエースを宥めている。どうやら私がマルコと一緒のベッドで寝ていることが気に食わなかったようである。確かに、人の部屋を占領して、おまけにベッドまで一緒にしているだなんて、他人からしたらとんだ甘えに見えるだろう。
私は弁解するように「ごめんなさい、私が言い出したの。マルコさんは何も悪くないから……」と口を開いたが、サッチに「余計なこと言わなくていい!」と遮られてしまった。


「な、ヒナからだと…!」
「ほらお前、軽率に口開くからエースが勘違いしちまうだろ!」
「えっ、ごめんなさい…」
「ヒナ、謝んな。エース、馬鹿言ってんじゃねェよい」
「だけどよ、いくらマルコとはいえ男と女が同じベッドで寝てるって、おかしいだろ」


少し落ち着いた様子のエースがそう言うと、サッチが肩を落として「まあそれはそうだが」と答えていた。
サッチが私の方を向き、「お前な、いくら相手がマルコとはいえ、男と一緒に寝るなんて少しは考えろ。な?」と戒めるように話す。襲われても文句言えねェぞ?と念を押されると、流石の私もサッチの言いたいことを理解して少し頬を赤らめて「はい」と返事をした。
先日島で男たちに襲われそうになったことを思い出す。確かに、あのような男たちと一緒に寝たらどうなるか、いくら鈍い私だって想像がつく。だが、あんな男たちに一緒に寝ようと誘うほど私も馬鹿ではない。ということは、マルコに対して私は安心しきっているということだろうか。
マルコを見上げると頭を優しくぽんぽんと撫でてくれた。頬が、熱くなる。私は、彼のことを異性として意識していると思う。だけど、同時に彼が私に対して乱暴なことはしないと信頼しているのもまた事実だった。それは決して矛盾している感情では無かった。


「マルコと寝れるんなら、おれとだって寝れるだろ!」
「お前とは二人で寝かせるわけねェだろい」


マルコはそう淡々と答えてベッドを降りた。すっかり眠気は覚めてしまっている。エースはまたマルコに何やら抗議しようと言い返していて、いい加減私も起きて着替えてしまおうかとベッドを出ようとした。そのとき、サッチがエースを宥めるためにマルコへと声を掛けた。


「おいおい…エースは何を心配してんだか。マルコがヒナのこと、女としてみてるわけねェだろ。ましてや手を出すなんてありえない話だ。なあ、マルコ?」
「……あぁ、当たり前だろ」


思わず、マルコのことを振り返ってしまった。私からは、彼の顔は見えなかった。
私は、マルコにとって恋愛対象にはならない。
それは別に初めて知った事実ではないはずった。だけども、こうやって実際に言葉として聞いてしまうと、私の胸は感じたこともないくらいぎゅうと苦しく締め付けられる。
サッチの問い掛けに対して、否定して欲しかったのだろうか。彼が私を異性として見ていないことなんて、分かりきっていたはずなのに。
「当たり前だろ」と答えた彼の言葉にはなんの感情も入っていないように聞こえた。無機質な返答は、私の心を深く抉る。ずっとそこにあったはずの事実を、見ないように目を逸らしていただけだったというのに。

マルコはサッチとエースを部屋から追い出して、自分はシャワーを浴びると言って浴室へと入って行った。私はそれに生返事をして、立ち上がりかけたベッドにもう一度腰掛ける。
心臓がさっきの会話でぐるぐる巻きにされて、上手く脈を打てなくなってしまったような気持ちだった。呼吸が浅くなる。分かってはいた。だけど、それでも……。浴室から聞こえる水音が、頭の中でぐわんぐわんと響いて鈍い痛みをよんでいた。

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