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彼はどうして私に優しくしてくれるのだろう。
困っている人を見かけたら、つい手を差し伸べてしまう性格なのかもしれない。だとしたら、私は彼にとってどうしたって見過ごせない存在だろう。弱くて、泣き虫で、誰かの助けがないと立っていることすらままならない。
涙は随分前に止まっていたけど、私はマルコの胸に縋りついたまま動かなかった。抱きしめる腕は変わらず優しくて温かかった。


「そろそろ、寝るか」
「いやです」
「嫌ってお前、今何時だと思ってるんだ」


背中に回っていた腕が降ろされる。離れていく温もりが寂しくて、つい我儘を零してしまった。マルコのシャツをさらに強くぎゅっと握ると、大きなため息が降ってきた。
呆れられても良かった。私はこの人の体温を感じられるくらい近くにいることが出来れば、なんでもいいとすら思えた。


「一緒に寝てくれなきゃ、いやです」
「………分かったから」


マルコの声からは、感情が読めなかった。「風呂入ってくるから、先に布団入ってろ」と言われて、私は今度は素直に頷いた。ようやく体を離すと、マルコはやっぱり少し困ったような表情をしていた。私が頷くと、頭を撫でて「いい子で待ってろよい」と少しだけ笑ってくれた。





気が付くと、私はマルコのベッドでぐっすりと眠っていたみたいだった。目を覚ましたが、部屋の電気は落とされて真っ暗で何も見えなかった。待ってろ、と言われたのに……。マルコとの会話を思い出して体を起こそうとしたが、自分の体の上に大きな腕が覆い被さっていることに気付いた。
頭上から、寝息が聞こえる。私は、マルコに抱きしめられて眠っていた。気付いた途端、鼓動が早くなり、頬が熱く火照る。マルコを待てず先に寝てしまったというのに、彼は私と交わした口約束をきちんと守って一緒に寝てくれていたのだ。優しさに、温もりに、また泣きそうになってしまう。
ぐずっと、音を立てて鼻を啜ると、マルコの大きな手がそっと私の髪を撫でた。見上げると、薄目を開けたマルコが私を見つめていた。


「起こしちゃいました?」
「いや……」
「ごめんなさい。私から言い出したのに、寝ちゃってて…」
「謝らなくていい」


マルコの声は穏やかで心地よかった。私はそっと目を閉じる。


「マルコさんに撫でられるの、気持ち良くて、好き」
「あぁ、そんな顔してる」
「暗いのに、見えるんですか?」
「いつもそういう顔してるからな」


ふっ、とマルコが静かに笑ったような気がして私の心を少しだけくすぐった。髪の毛に触れる指が時折耳を掠めて、その度に心臓がドキンと跳ね上がる。会話をしていないと、自分の心臓の音がやけに大きく聞こえてしまい恥ずかしかった。

一緒に寝たいと言ったのは自分だけど、随分と大胆な発言だったかもしれないと今更羞恥心が芽生えてくる。マルコは、一緒に寝たいと言われてどう思ったのだろう。私の子供っぽさに呆れて、しかし持ち前の面倒見の良さから放っておくことも出来ず、仕方なしに今こうして一緒に寝てくれているのだろうか。
身寄りも無い、自分が誰かもわからない哀れな弱い女へのただの同情だとしても、それでも良かった。彼の私に対する優しさ自体は本物で、私にとってはそれだけがこの世界で唯一信用できるものだと思えたから。




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